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Jリーグ「ゼロ円移籍」問題 なぜ“外資系”代理人は「レンタル移籍」を推すのか?【齊藤未月(湘南→ロシア)移籍のウラ側】
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph bySHONAN BELLMARE
posted2021/03/17 17:02
今年1月に湘南ベルマーレからルビン・カザン(ロシア)へレンタル移籍した齊藤未月 ©Getty Images
「弊社は世界に16拠点を持ち、40人の代理人が働いている。その中で僕に与えられたミッションは、日本国内のクラブや選手と関係を築くこと。ヨーロッパでのクラブ探しは、各国に散らばっている同僚がやってくれます。
たとえば齊藤未月がロシアへレンタル移籍したときは、僕が湘南と話し、モスクワのロシア担当がルビン・カザンに交渉した。それをロンドンにいるアジア担当の上司が統括する。僕はルビンとの話し合いには一切出なくて良かった。それが全部1つの組織の中で完結することで効果も効率もよくなる」
代理人というと世界を飛び回るイメージがあるが、『Base』では分業制が導入されており、各代理人は担当国内に集中すればいい。
代理人給料は「外資系のサラリーマンに近い感じ」
前の記事で紹介したように、富永は進学塾VAMOSを経営する「受験界のカリスマ」でもある。塾と代理人を両立できるのは、『Base』ならではの分業体制も大きい。
ただし、欧州移籍後に選手との関わりが完全になくなってしまうわけではない。
「ロンドンに上司の代理人がいて、日本人選手がヨーロッパへ行くと彼の担当になる。ただ選手から見ると私が入口で『Base』に入ったわけですから、引き続きサポートするようにしています。
たとえば板倉滉選手の場合、Zoom会議で上司とフローニンゲンが話しているのを横で聞いて、板倉に訳しました。交渉で僕が話すことはないんですが、言葉の面でフォローしています」
多くのスタッフが移籍に関わるため、報酬の受け取り方も通常の代理人とはやや異なる。大型移籍を担当したからといって、利益を独り占めにすることはできない。
「みんなで移籍を実現するので、成果もみんなで分け合う。基本的に外資系のサラリーマンに近い感じで、給与は固定給とボーナスから成り立っています。ボーナスは会社の業績と自分のチームの成果で決まります」
今、日本サッカー界では「ゼロ円移籍」が起こっても、あまり大きな反発はない。23歳以下であればFIFAの規定により育成補償金が支払われるため、ネガティブなイメージが薄まっているのかもしれない。
だが、育成補償金だけでは額が限られている。クラブを発展させるためには一定の移籍金が必要だ。
もちろんヨーロッパでも「ゼロ円移籍」はよくあり、たとえばバイエルン・ミュンヘンのダビド・アラバが契約満期終了で今夏に退団する。しかし「ゼロ円移籍=クラブに迷惑をかける」という認識はしっかりと浸透しており、アラバはメディアから痛烈に批判された。
日本も今後はクラブにも選手にもプラスになる移籍が増えるよう厳しい目を向け、Jリーグのクラブが代理人に対して選手の契約延長を強く求められるようなプロリーグ文化をつくっていくべきだろう。
外資系事務所の日本上陸は、その好機になる。
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