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「震えが止まらなくて…」バタフライに復帰して優勝、池江璃花子が「失って初めて感じた」こととは?
posted2021/03/04 11:00
text by
藤森三奈Mina Fujimori
photograph by
Nikkan Sports/AFLO
ゆったりと、他の選手とテンポをずらしてスタート台にあがった池江璃花子の足は震えていた。
「フライングするんじゃないかというくらい震えが止まらなくて、いつもと違いました」
100mバタフライ(長水路)に、池江が帰ってきた。この種目は、彼女が最も得意とするもの。15歳で日本記録を更新すると、その後8度、自分自身でその記録を縮めてきた。リオ五輪のときだけでも、予選、準決勝、決勝と2日の間に次々と日本記録を塗り替えた。現在の日本記録は、彼女が18年8月のパンパシフィック水泳で出した56秒08である。
高校3年生だった18年は、100mバタフライでは7回優勝、50mバタフライでも日本記録を更新し続けるという、心身ともに充実感で漲る競技生活を送っていた。変調を感じたのは、翌年1月13日の三菱養和スプリントでの100mバタフライ。ゴールしたときのタイムは、自己ベストより4秒以上遅かった。
「イメトレをしようと思ったら不思議な感覚になったんです」
冒頭の東京都オープン前夜、池江がイメージトレーニングをしようとしたときに思い出したのはその日のことだった。
「いつものようにイメトレをしようと思ったら不思議な感覚になったんです。あのとき、自分でも驚くほど遅い結果が出て、そのレースを最後に闘病生活に入りました。明日はそれ以来のバタフライのレースになる。ああいう状態で終わったけど、やっとここに戻ってこられた、やっと自分の得意な泳ぎを見せられる日が来たんだと。イメトレする余裕はありませんでした」
白血病と闘い、プールに戻ってきたのは、今から約1年前の3月17日。13カ月が経っていた。