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東海大一・サントス、武南・ 江原、岐阜工・ 片桐…得点王3人が語る選手権秘話「バナナシュートは神様の合図で」
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/01/10 11:02
左から三渡洲アデミール、江原淳史、片桐淳至
左足の痺れが神様からの合図かのよう
「蹴る前から感触があったよ。というのも、左足が痺れていたからね。左足が痺れていると、なぜかいいキックができる。まるで神様からの合図かのようにね」
心地よく痺れる左足首をまわしながら、視線は7枚の壁の弱点を探っていた。
「狙ったのは左端の選手の右耳。キーパーは明らかに緊張していて、左ポスト際に速いボールを蹴れば反応が遅れると思った」
完璧な一撃。それはブラジル時代、カズと日々繰り返したキック練習が結実した瞬間だった。この一戦をゲスト解説として見守る、カズに捧げるゴールでもあった。
このフリーキックは美しい放物線から“バナナシュート”と名づけられ、サントスの代名詞となる。
少年は、サッカー界を超えたヒーローになっていた
決勝翌日、仲間とともに清水に凱旋したサントスは目を丸くした。「マイケル・ジャクソンでも来たのか?」と錯覚するほどの群衆が駅前を埋め尽くしていたからだ。しかも、そのお目当ては自分だった。
人生を変えようと高校サッカーに勝負を挑んだ少年は、サッカー界を超えたヒーローになっていた。やがて、愛称の「ベレーザ」というタイトルの写真集まで発売された。数々のヒーローを生んだ選手権だが、写真集になったのは彼しかいない。
33年前を振り返ってサントスは語る。
「日本一が決まった瞬間は、暗い世界から天国へのドアが開いたような気がしたよ。“この瞬間のためにぼくは日本に来たんだ”、心底そう思えたんだ。しばらくして祖国に帰ると、ブラジルの空港には日本のテレビや雑誌の人がたくさん待ち受けていて、お母さんがびっくりしていたよ。“あんた、なにか悪いことしたのかい?”って」