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甲子園の真逆をやるべき? アメリカから見た日本スポーツの育成の問題点「10点差で勝ったら怒られる」

posted2020/12/10 17:00

 
甲子園の真逆をやるべき? アメリカから見た日本スポーツの育成の問題点「10点差で勝ったら怒られる」<Number Web> photograph by Hiroki Wakabayashi

アメリカでアイスホッケーの育成年代の指導に携わっている若林弘紀氏(中央)。世界から見た日本の現状は「異質」だと語った

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高木遊

高木遊Yu Takagi

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Hiroki Wakabayashi

 新型コロナ禍の中、インターハイや甲子園を中心とした大会中止が相次いだアマチュアスポーツ界。夏頃からは関係者の尽力によりあらゆる大会が観客数の制限などを受けながらも通常に近い形で開催されてきた。

 甲子園に代表されるように、ユース年代の戦いは観る者の心を揺さぶり、これまでも多くのドラマが生まれてきた。それは負けたら一発勝負のトーナメント形式による恩恵が大きい。しかし、その一方で“トーナメント”は平等にスタートラインに立てているようにも思うが、弊害も少なくない。「日本ユーススポーツの最大の問題点は、無差別級の一発勝負トーナメント」と警鐘を鳴らすのは、アメリカで育成年代のアイスホッケーを長年指導する若林弘紀氏だ。

 若林氏は競技人口や競技施設を効率的に配置し、最適化された競技環境を構築する『競技構造』という概念を考案、研究している。筑波大学大学院体育科学研究科を修了した後、アイスホッケーのプロコーチとしてUSA Hockeyコーチ・ライセンスの最高位であるLevel 5(マスターコーチ)を取得。HC日光アイスバックス(現・H.C.栃木日光アイスバックス)、北米、トルコ、香港(女子代表監督)で指導を行い、2015年にアメリカへ移住し、アイスホッケーの世界最高峰リーグNHLのアリゾナ・コヨーテズのユースチームを経て現在アリゾナJrサンデビルズのゴールテンディングディレクターを務めている。

 今回、ユース年代スポーツの問題点や国内外の実情、そして若林氏が掲げる「競技構造改革」の必要性を訊いた。

「運営」がプロにならなければならない

――海外から見て、日本のスポーツはガラパゴス化していると感じますか?

 アメリカの視点からすると、相当異質だと思います。海外ではユーススポーツであっても、レギュレーション(リーグの編成・試合数・レベル分けなど)を毎年話し合って変えているので、固定化されることがほとんどありません。一方で、日本は数十年前から同じテンプレートのトーナメントと競技規則を使います。

――この差はなぜ生まれるのでしょうか?

 競技運営に関わっている人のプロフェッショナリズムのレベルの違いです。日本は手弁当でやっているので、まだまだ(レベルが)低いと思います。海外では完全なプロでなくてもそれなりの報酬をもらえます。当たり前のことですが、運営が上手くいかなかったり、質を担保するものが伴わない場合は、その運営者はクビになるわけです。たとえば日本のアイスホッケー界では、既存の大会と新しく始めた全国大会のテンプレートが全く同じなんです。

 あとは予算の付き方にも問題がありますよね。大会と育成が完全に別のものとなってしまっているのはおかしい。現状は「育成=強化合宿」となっており、本来の育成とは試合の中でも行われなければいけないものです。それにスポンサーには大会・リーグ戦の価値を説いて、子どもたちの長期的な育成を考えているということをプレゼンするべき。優勝カップをただ渡すだけのスポンサーではなくて、シーズンを通して育成に貢献するという意味で同じお金を落としてもらえるようなプレゼンを競技側からできるといいですね。

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