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元冷蔵庫配達バイトのFW、DからAへ大出世監督…セリエA昇格勢の“苦労話”が熱い!
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/10/28 20:00
最弱級戦力でも文句を言わないイタリアーノ。スペツィアはセリエA残留なるか
第二次世界大戦と“名誉スクデット”
本当は、スペツィアは新参者ではない。
少なくとも町の人びとはそう思っている。
第二次世界大戦の戦火がいよいよ激しくなった1944年、イタリア・サッカー連盟は全国リーグ続行を断念し、ミラノ勢やユベントスなど北イタリアの有力クラブによる特例リーグ戦が組織された。
そのとき、1位になったのが消防士で編成されたスペツィアだった。
2002年になり、連盟は当時の優勝を“名誉スクデット”として認定した。あくまで戦時下の名誉タイトル的な扱いで、本物のタイトルとしての扱いはされないが、彼らのユニフォームの右胸にある3色のワッペンはその証だ。
「ピッコ」が11月まで使えない中で
21世紀が始まったばかりの頃、3部時代のスペツィアの試合を観に行ったことがある。港近くのホームスタジアム「ピッコ」は、セメント造りのゴール裏スタンドに吹きさらしの潮風が舞っていて、寒さと口の中がしょっぱかったことを思い出す。
その「ピッコ」は改装工事中で11月まで使えない。300km離れたチェゼーナのスタジアムを間借りしての主催ゲームを強いられているスペツィアは、次節でユベントスと対戦する。それでも、イタリアーノのチームに怯むところは見られない。
「勝機を見出すために、できる限りスペースを渡さずこちらから仕掛けていきたい。うちを見くびる輩を黙らせてやろうじゃないか」
11月1日、76年前の幻の王者が仮のホームで21世紀の無敵王者ユベントスに立ち向かう。歴史はどちらに微笑むだろうか。