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「キャッチャー転向1カ月なのにカープ“石原慶幸”の匂い」2020年ドラフト目玉候補<捕手ベスト3>は?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
posted2020/10/18 11:02
ドラフト目玉ベスト3 捕手編(1)日大藤沢高・牧原巧汰(174cm78kg・右投左打)
捕手編(隠し玉)加茂暁星高・荒木友斗(174cm88kg・右投右打)
捕手の「隠し玉」というのは、毎年結構何人かは見つけているもので、そこまでしつこく“キャッチャー目線”にこだわっているわけでもないのだが、結果として、この目線に何人か引っ掛かってくるというのが現実だ。
今のプロ野球でいえば、明治大・坂本誠志郎は「2位」で阪神に指名されて驚いたが、亜細亜大・嶺井博希(現・DeNA)にホンダ鈴鹿・柘植世那(現・西武)、京都翔英高・石原彪(現・楽天)、たぶんこの選手は捕手しかやったことないだろな……、捕手しか似合わないだろな……そういう選手が、実によい「匂い」を発散してくれるのだ。
今年は、そういう匂いのする隠し玉を夏の「合同練習会」で見つけた。12球団のすべてがそのプレーを見たはずだが、この選手の“輝き”を感じることができたのは、おそらく「捕手出身」のスカウトだけだろう。
加茂暁星高・荒木友斗(174cm88kg・右投右打)。打者の後ろでミットを構えた姿がいい。後ろから見ると、荒木捕手の体全体が“ミット”になっている。別の言い方をすれば“カエル”。顔とミットを近づけて構えられている。
捕手の「構え」とは「念じること」だ。ミットを構えて、「ここへ放れよ~ここへ放れば打ち取れるからな~」と念じることだ。念ずれば、自然と、ミットと顔は近くなる。人が神仏に祈る――真剣な祈りほど、合わせる両手は自然と顔の前になっているはずだ。そういう意味では、捕手の構えは「祈り」とも言えるかもしれない。
荒木友斗はさらに、スローイングがすばらしい。捕球時の低い頭の位置が、頭一つぐらい高くなるだけ。どっしりした下半身の割れとフットワーク、体重移動で投げられる。
後で聞いて驚いた。本職は外野手だという。この合同練習会で、長所の「強肩」をアピールするために、独自大会後、捕手の練習を一生懸命に積んで臨んだという。
実質1カ月かそこらの「捕手経験」。にもかかわらず、白い糸を引くような送球が二塁ベースに集まる。<強肩自慢>なら、もっと力任せになりそうなものだが、捕手のスローイングに大切な二塁ベース上にポンと置こうとする意識が見える。見事なスローイングが続く。
バッティングだって悪くない。時おり、引っ張りたがりの強引さが見えるが、それはこうした「オーディション」に付き物の気負いや力みだ。それをすぐに修正した時はインパクトの音が変わる。腕っぷしが強くて、インパクトの瞬間に明確な「力点」を作れるスイングの持ち主だ。
12日に引退表明した広島ひと筋19年目の捕手・石原慶幸の東北福祉大1、2年の頃がちょうどこんな感じだった。よい匂いのするキャッチャー、キャッチャーしか似合わない男が、また1人グラウンドを去る。「その男」になるのは容易なことじゃないが、追っかけて行ってみてほしいヤツが1人、新潟に隠れていたのだ。
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