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丸山茂樹「僕は失敗してしまったから」 “憧れる後輩”に託す思いとタイガーとの秘話
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byAsami Enomoto
posted2020/10/01 17:00
丸山茂樹がパーソナリティを務めるラジオ番組にゲスト出演した星野陸也。偉大なる先輩のアドバイスを胸に、飛躍を誓った
「まずタイガーを見てしまった」
丸山のデビューイヤーは、タイガー・ウッズがメジャー3勝を挙げた2000年。ゴルフの時代が轟音を立てて動き始めたまさにそのときだった。
「僕、(世間から)飛ばない人と思われてるけど、初年度(2000年)はドライビングディスタンスも26位で、飛ばないほうじゃなかったんだ。でも、まずタイガーを見てしまった。追いつけるわけないのに自分の個性を失った。器用貧乏でヘタをした。もっと自分自身を大切にしていれば……あと5年くらいいられたかもしれない」
08年に撤退し、日本ツアーに復帰。いわゆるパワーアップを追求するあまり、プレースタイルを崩してしまう多くの日本人選手に芽生える“悪癖”は、丸山にもあったのである。
調子に乗らせたら何をするか分からない
ただ振り返れば、丸山が個性から目を背けるきっかけになったのもウッズなら、それを改めて認めさせてくれたのもウッズだった。2年に1度行われる世界選抜と米国選抜の対抗戦、プレジデンツカップで相対したときの思い出。
「タイガーとやったとき、ティショットで僕がドライバーで打つと、彼は3番アイアンなんかで手前に刻んで、2打目で長い距離からグリーンにのせてきた。なぜ?と思ったけれど、あとで聞くと『(丸山は)調子に乗らせたら何をするか分からない。後ろからプレッシャーをかけた』って」
スマイリング・アサシン(Smiling Assassin)。同じ笑顔をトレードマークにしながら、渋野日向子の「お姫様」に対し、丸山についた「暗殺者」のニックネームは、いま思えばずいぶんな言われようである。だが、そんな「チャンスで急所を刺す強さ」こそが、個性だった。
「1、2mのパットは、死ぬほどうまかったから。そこの根性だけでやってきた(笑)。タイガーの言葉はうれしかったし、これは僕のセールスポイントだから伸ばそう、と。スゴイ飛距離がない代わりに、相手に『しつこい』と思われるようなところ」
第一線で奮闘した9年は、パワーへの欲と葛藤しながら戦い抜いた時間でもあった。