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天衣無縫イブラ様、再契約は「ミラン愛のためだけだ」 名門復活へ赤黒根性200%
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/09/21 09:00
来月39歳となるイブラヒモビッチだが、衰えて隠居になるつもりなんてさらさらないはずだ
CEOに対して「今頃何しに来たんだ?」
「あんた、今頃何しに来たんだ?」
6月10日、ミラネッロ練習場にやってきたCEOガジディスにイブラは楯突いた。
春に始まったロックダウンがようやく解除され、2日後のコッパ・イタリア準決勝からイタリア・サッカー界がようやく再出発しようとしていたときだ。
ユベントスとの2ndレグは、再開後の初戦という大義ある試合で、政界や世間の関心も高く、選手たちは不安にかられ、緊張に満ちていた。
そんな折、CEOがわざわざやってきたのだから、彼の口から隔離生活への労りや家族らへの気遣い、歴史的な一戦への激励が出てくると思うのが普通だ。
しかし、いの一番にガジディスCEOが告げたのは「労使双方から提案されていた今季の年俸カット案について親会社エリオット側の承認が下りた」という会計報告だった。
空気が読めないにも程がある。ガジディスが畑違いの雇われ社長だということは誰もが理解しているが、そのタイミングで減俸通告された選手たちの失望を考えるとやり切れない。
“帝王”シルビオ・ベルルスコーニの時代にも相当の緊張はあった。しかし、こんな息苦しさはなかったし、帝王は少なくともサッカーを愛していたから、大事な一戦を前に選手のやる気を削ぐような無粋な言葉をかけたはずがない。
「こんなの、俺の知ってるミランじゃねえ」
イブラヒモビッチは、あんたどんだけ現場のことわかってくれてんのかな、と静かにすごんだ。選手たち全員が腹に抱えた気持ちを代弁していた。
「俺がここにいるのはただ情熱のため、クラブ愛のためだけだ」
16年前、カペッロの言葉が闘志に火をつけた
今から16年前の夏、アヤックスからユベントスにやってきたとき、「自分は何者でもなかった。無名のFWの1人にすぎなかった」とイブラヒモビッチは語っている。
当時の指揮官ファビオ・カペッロに何とかアピールしようと機会を窺っていたが、無視され続けた。鉄の規律で知られる名将にこう言われ、持ち前のハングリー精神に火が点いたのだという。
「まだ何も成し遂げていないくせにリスペクトなど求めるな。リスペクトはつかみとるものだ」