濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
史上最年少デビューから15年“子役”から王者へ 女子レスラー・ラム会長のプロレス人生は続く
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2020/09/15 11:15
史上最年少デビューから15年のラム会長。誇らしげな顔を見せ、前へ向かうと誓った。
女子のリングへの戸惑いがあった
ここがラム会長のキャリアの特殊なところなのだが、アイスリボンに参戦し、初めて真っ向から“女子プロレス”に取り組んだのは昨年のことだった。
それまで666でやっていたのは男女混合マッチ。コミカルというのかカオスというのか、団体公式の場内実況で「茶番」と言われるような試合なのだった。時事ネタもパロディも不謹慎も満載、基本的にマスコミも撮影NG、ノーツイート&報道NGである。
だがもちろん、それだけではレスラーとしての未来は拓けない。プロレスにどっぷり浸かる決意を固め、基礎から練習を重ねて臨んだアイスリボンで、ラム会長はあっという間に頭角を現した。
666で男子選手の教えを受けたため、女子のリングには戸惑いもあった。男子プロレスの中には“少ない技で観客を魅了するのがいいレスラー”という考え方がある。逆に女子はテンポが速く手数、技数が多い。ただそこで「こんなの私が教わってきたプロレスじゃない」とはならなかった。
「ダテに15年すごしてきちゃった。でも」
本人には「キャリアは長くても女子プロレスでは新人」という意識が強く、身長150cmに満たない小さな体で奮闘する姿が好印象を残した。そもそも“ラム会長”は「愛着はあるけど大人が作ったもの」だと自分でも思っている。こうでなくてはいけない、という変なこだわりはなかった。ついでに「特に大きな野望もないんですけど」と以前は笑っていたのだが、今年8月には3人同時対戦ルールのトライアングルリボン王座を獲得している。
デビュー十五執念記念試合では、重量級の対戦相手3人に苦しめられた。ハードな攻撃を食らうたびに、感染(観戦)するファンから悲鳴やうめき声がもれる。ラム会長のシリアスな攻防を初めて見たのだろう。まさにそれが狙いだったのだ。アイスリボンでの“女子プロレスラー・ラム会長”を666のファンにも見せたいという思いが本人にはあった。場内実況によると、ラム会長が666のリングでまともに受身を取ったのはこの試合が初だったそうだ。
プロレスラーには、そういう15年もあるということだ。「ダテに15年やってない」の正反対。ラム会長曰く「私の場合はダテに15年すごしてきちゃった。でもそれも私らしい15年かなって」。