濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
完成度は「1億%!」。17歳のチャンピオン・鈴季すずはプロレスに全てを捧ぐ。
posted2020/09/02 19:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
「長かった……」
女子プロレス団体アイスリボンの頂点、ICE×∞のベルトを巻いた鈴季すずはそう言って泣いた。8月9日、横浜文化体育館大会でのことだ。
長期政権を築いていた雪妃真矢を下し、第31代王者となった彼女は2002年9月16日生まれ。タイトル奪取時点では17歳10カ月という若さだ。中学卒業後すぐに故郷の宮崎県を出て入団し、一昨年大晦日にデビュー。キャリア1年7カ月での戴冠というスピード出世でもある。
それでも本人には「長かった」のだ。「ベルトを巻いた瞬間、これまでの出来事が全部、頭の中を駆けめぐりました」という言葉は10年選手のようだが、なにしろ人生の“濃さ”が並の人間とは違った。
人より多く、長くレスラーでいられる。
たまたまテレビで見たプロレスに衝撃を受け、女子プロレスというものがあるのを知った。私もプロレスラーになる。そう決めた瞬間に「高校に行くことは頭からきれいになくなってました」。進学せずにプロレスラーになりたいという娘を、親も止めなかったそうだ。
「周りの同世代の子を見ると“JK!”って感じがしますね。私は“タ……タピオカ? TikTok?”みたいな(笑)。寮と道場、団体の事務所にいる時間がほとんどなので。でもプロレスのことだけ考えて生きていけるのは幸せです。大学を出て、社会人を経験してからレスラーになる人もいる。30代からでもデビューできる。でも私は人より多く、長くレスラーとしての時間を過ごせるんです」
デビューが予定されていたのは、2018年8月のビッグマッチ、横浜文化体育館大会だった。ところが試合直前になって自転車で転倒、ケガをして欠場=デビュー延期となってしまう。あらためて初の公式戦に臨んだのは、その年の大晦日だった。
翌年10月、主力選手の1人が団体を離脱する。キャリア1年に満たないすずだったが「私がアイスリボンを引っ張る」とファンに宣言した。敗れはしたがシングル、タッグのベルトに立て続けの挑戦も。タッグ王者として対戦した取締役選手代表の藤本つかさは、すずをはじめとする若い世代を「アイスリボンの未来」だと評した。