ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
ベイスターズ先発陣躍進の裏に、
女房役“トバさん”の内助の功。
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byKyodo News
posted2020/07/18 11:40
戸柱(左)は入団5年目の30歳。ここ2シーズンは出場機会を減らしていたが、今季は若手の平良をうまくリードをするなど、存在感を発揮している。
ピッチャーの人生を背負う。
キャッチャーは、ピッチャーの人生をも背負っている。
6月25日の中日戦はルーキーの坂本裕哉が初登板したが、船出をともにする戸柱の責任は重大だった。坂本にとって野球人生をスタートさせる緊迫のマウンド。しかし、蓋を開けてみれば6回、被安打1の見事なピッチングで初勝利を挙げ、戸柱は最高のサポートをするに至った。
「試合前はすごく緊張していて、ブルペンでも調子が悪かったんですよ。ですから僕はふざけたり、顔を合わせては話すようにしていました。最後は『ゼロでいきなり抑えられるわけじゃないから、相手に向かって全力で投げていこう』と。しかしゲームに入ったら見違えるようなボールを投げていたので、今日は大丈夫だなって」
人生に一度しかチャンスのない初登板での初勝利。キャッチャー冥利につきるんじゃないですか、と尋ねると、戸柱は薄く笑みを浮かべた。
「そうですね。終わったときはホッとしました。抑えて勝ったらピッチャーがスポットライトを浴びるのが当たり前だと思うし、僕としては少しでも手助けができたらいいなって。そういう役割が果たせると、以前にも増して嬉しいという気持ちが湧いてくるんですよね」
「トバさんは後輩の面倒見が良い」
噛みしめながら話す戸柱の様子を見ていると、以前、石田健大が話してくれたことを思い出した。石田は、入団年は戸柱より1年早いが年齢は下になる。
「寮に入ってトバ(戸柱)さんと一番最初に話したのが僕じゃないですかね。トバさんは後輩の面倒見がすごく良くて、ずっと組んでいた時期もあったので特別な思いがあるんです。僕はトバさんのことをわかっているつもりだし、トバさんは僕のすべてを知っていると思いますよ」
ピッチャーとキャッチャーの関係。よくキャッチャーは“女房”と称されるが、ピッチャーのすべてを知り尽くし陰ながらサポートをする“内助の功”こそが戸柱にとっての矜持なのだろう。
現在、戸柱の出場機会はかぎられているが、新型コロナ禍の影響によりスケジュールも厳しくなにが起こるか予想もできないシーズン。耳を欹て、目を見開き、俯瞰し、来たるべき出番に向け最高の準備をするだけだ。
「ファンの皆さんが球場に戻ってきて、いつも以上に力が出るなといった感覚になりました。チーム状況はいいですし、ここからは自分たち1人ひとりの気持ちが大事になってくると思います。相手に向かっていく気持ちを強く持って、1つひとつ勝っていけるように」