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山中慎介、劇的な勝利。岩佐亮佑は
「“倒れさせてくださいよ”って」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2020/07/02 11:10
山中はこの勝利から8カ月後、WBC世界バンタム級王座を獲得して、世界王座12度防衛を果たす。
「負けて強くなる、本当にそう思います」
あの山中戦があるから、今がある。心からそう言える。
嫉妬心もとっくに消え去った。
「一生懸命頑張れたから、そう思えるんだと思います。ボクサーですから、負けたら悔しいし、そりゃあれだけのチャンピオンなんですから嫉妬もしますよ。でもそれを素直に受け入れて、俺も世界チャンピオンになって自分で納得できる戦いをしなきゃって思えましたから。負けて強くなる、本当にそう思います」
次の戦いは、正規王者ムロジョン・アフマダリエフとの王座統一戦になる。コロナ禍によって日程、開催場所は未定だが、来たるべき日に向けてジムで意欲的に、トレーニングに励んでいる。
「ボクシングを目いっぱい楽しみたい。それだけですね」
「僕のボクシング人生は順風満帆じゃない。でもそれによって、いろんなことが勉強になりました。多くの仲間もいるし、人脈もつくれたし、苦労したからこそだとは思うんです。統一戦、メチャクチャ楽しみです。もう吹っ切れているので、別に倒されてもいいんです。ボクシングを目いっぱい楽しみたい。それだけですね」
9年前のあの夜、山中の強打に派手にブッ倒れようとした。
だが飛んできたタオルによって、倒れないで済んだ。
岩佐亮佑はその後もボクシング人生において何度か倒れかけながらも周囲の支えと努力によって倒れることなく、己のボクシングを磨き上げてきた。そして強くなった。
ジムで岩佐の練習を見守るセレス小林の一言が耳に残る。
「今の岩佐は脂が乗っている。いい時期に入っている。吹っ切れたときのボクサーが、一番強いですから」