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山中慎介、劇的な勝利。岩佐亮佑は
「“倒れさせてくださいよ”って」 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2020/07/02 11:10

山中慎介、劇的な勝利。岩佐亮佑は「“倒れさせてくださいよ”って」<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

山中はこの勝利から8カ月後、WBC世界バンタム級王座を獲得して、世界王座12度防衛を果たす。

「イケイケで勝てる世界じゃなかったんです」

 言うまでもなく、山中との敗戦を糧にしてきた。

「結局、イケイケで勝てる世界じゃなかったんです。それがあの試合で分かった。全体的に力を配分して、戦略を立てて、考えて。

 山中さんが5回防衛するくらいまでは“俺、こんな強い人とあそこまでやれたんだ”って自信にはなりました。でも防衛記録が懸かるくらいになると、嫉妬に変わったんですよ。“おいおい、どこまで行くんだよ”って(笑)」

 彼の紆余曲折は続く。2度目の防衛戦で指名挑戦者テレンス・ジョン・ドヘニーに0-3の判定負け。王座から陥落して引退まで考えた。だがこのときまだ28歳。山中が岩佐に勝って世界に羽ばたいていったときと同じ年齢だった。

ドヘニーに負けて引退しようと「8割思った」。

 キャリアを重ねながら山中と同じような感覚にもなっていく。応援してくれることの有難みだ。

「山中さんと戦ったときは、応援されている責任とかあんまり感じてなかった。負けても軽い言葉で“また頑張ります”とは言えないって今なら分かるんですけど、あのときはまだ若かったし、生意気でしたから。だから僕、もしあのとき山中さんに勝ったとしても次、世界チャンピオンにはなっていなかったと思うんです」

 自分に足りないものは、何か。

 ドヘニーに負けて引退しようと「8割思った」。だがボクシング続行を考える2割の気持ちが勝ったのは、応援してくれる人たちの声だった。

「支えてくれる人たちが僕のためにいろんな意見を言ってくれて、そのなかの1人が“世界チャンピオンになって、俺たちはいいものを見せてもらった。次は自分のためにやってみたらどうだ”と言ってくれたんです。

 その言葉に“えっ、俺やっていいの?”って。自分のためなら負けたっていいや、だから伸び伸びやろうっていう思いにもなったんです」

【次ページ】 タパレス戦は戦略的かつ、メリハリをつけつつ。

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