ボクシングPRESSBACK NUMBER
死闘の中盤。山中慎介は鼓膜が破れ、
岩佐亮佑は「何か星が飛んで……」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by Hiroaki Yamaguchi
posted2020/07/02 11:05
序盤はリードを許したものの、中盤からは王者・山中がペースを握った。
序盤に当てたタイミングをつかめない。
ボディーが当たれば、岩佐の焦燥感はなお強くなる。
パンチを返そうと前に出て山中の射程距離に入ってくるのだから、この誘い水はかなりの効果を王者にもたらすことになる。
それでも挑戦者はひるまず前に出ていく。山中のパンチに合わそうとする。
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だが序盤に当てたタイミングをなかなかつかめない。
「山中さんは上下を打ち分けてきて、あとバックステップを使って僕の距離を測られた感がありました。あれ、当てにくくなったぞ、と。ボディーはそんなに効いたっていうダメージはないんですけど、嫌なタイミングでもらってはいました」
もどかしさが募っていく。
敢えて、山中はガードを下げていた。
リズムに乗る王者と、リズムが止まる挑戦者。
岩佐が次のステップに進めないなかで、山中はもう一段階上げようとする。ジャブが当たり、ボディーが当たれば、あとは渾身の左ストレートを見舞うだけだ。
岩佐がうまいことも、強いことも、分かっている。精神力もある。目もいい。勘もいい。今まで戦ってきたなかで、最も骨のある相手だということも。
山中の帝拳ジムサイドからはしきりに「ガード!」の声が飛んでいた。位置が低く、顔面が無防備になっていることを陣営は懸念していた。
だが敢えて、山中はガードを下げていた。この強者に勝って世界の扉をこじ開けるには、リスクを冒さなければならない、と。
「もちろんセコンドからの指示はしっかり聞こえていました。ただガードを上げたら、今つかんでいる距離感が絶対に狂う。これは自分の感覚として間違いない。
だからパンチが来たらガードって思っていたんですけど、それじゃやっぱり間に合わない。相手は岩佐なんでね。だから試合のなかで考えついたのが、パンチをもらう直前に首を振ってかわすスリッピングアウェーでした」