ボクシングPRESSBACK NUMBER
死闘の中盤。山中慎介は鼓膜が破れ、
岩佐亮佑は「何か星が飛んで……」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by Hiroaki Yamaguchi
posted2020/07/02 11:05
序盤はリードを許したものの、中盤からは王者・山中がペースを握った。
強気の岩佐が初めて後退した。
虎穴に入らずんば、虎子を得ず。
6ラウンド終盤だった。岩佐の左ストレートを間一髪、スリッピングアウェーで回避する。そして次は自分の番とばかりに、ノーモーションの左ストレートを顔面に打ち込む。強気の岩佐が初めて後退したシーンだった。
勝負とみた7ラウンドは、王者が攻勢を強める。ワンツーで終わらず、しっかりとスリーまで。残り40秒、ワンツーが岩佐の顔面を弾き、もう一発打ち込む。
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山中のKO決着を予感させる展開に変わっていく。しかし8回は岩佐が踏ん張って逆に左を浴びせている。山中のリズムを強引に止めてみせたのだ。
右フックが山中の鼓膜を破った。
岩佐はこう振り返る。
「試合の後半は山中さんにボンと当てられて距離を取られて、僕は一生懸命に追っていくっていう展開。うまくヒットアンドアウェーをやられた感じ。僕の気持ち的には、行かなきゃ、行かなきゃって、それだけですよ。来るものに対して自分が持っているパンチを出すだけでした」
右フックが山中の鼓膜を破った。劣勢ではあっても、それが一気に攻勢にかわる可能性を常に示していた。
山中が表情を変えない一方で、岩佐は口を開けていた場面があった。
疲労があったのかと聞くと、彼は首を横に振った。
「あれはあごが痛くて(笑)。パンチをもらって、あごの接続を何とかしようって。でも確かに山中さんの表情は変わらなかった。精神的に強い人だなって思いました。
でも僕自身、気持ちにおいても負けたくはなかった。負けない、負けないって何度も言い聞かせて。会長からも『行かなきゃ勝てないぞ』と言われていて、実際ポイントでも負けていると思っていましたから」