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2015年ラグビーW杯での極限状態……。
五郎丸歩はなぜ安定していたのか。
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byAFP/AFLO
posted2020/06/29 19:00
2015年のラグビーW杯。練習の合間に空を見上げていた五郎丸歩。どこまでも大胆、かつチームメイトを思いやる繊細な気持ちが歴史的プレーを生んだ。
「今日も、朝起きたときは、すぐ練習着に着替えて……」
翌朝。帰国を前にした宿舎で、五郎丸に、改めてW杯に込めた思いを聞いた。
悔しさと達成感、強いのはどちらですか。
「分かりません。整理できるのはまだ先になると思う。今日も、朝起きたときは、すぐ練習着に着替えて、ヘッドスタートかなと思ったくらい。それが日常でしたから」
W杯に向けて、すべてのエネルギーを注いできた。切り替えるのは難しいですか。
「でも、すぐにトップリーグが開幕します。これまでもずっと休みなしで来ていたし、行けるところまで行こうと思ってます」
この4年間、多くの犠牲を払って日本代表だけにエネルギーを注いできました。
「責任はずっと感じていたし、今回はいろんなものを背負ってW杯に臨んだけれど、今までで一番幸せな時間でした」
日本ラグビーの新しい時代の扉を開いた男は静かに言った。それは途轍もなく長い、過酷な助走の末の到達点だった。
(Number臨時増刊 「<エディー・ジャパンW杯戦記>桜の凱歌」(2015年10月)掲載の大友信彦「五郎丸歩『ラグビーに奇跡なんてない』」 より)