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勝武士という力士を忘れない……。
新型コロナの話題だけではなく。 

text by

荒井太郎

荒井太郎Taro Arai

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photograph byKyodo News

posted2020/05/21 20:00

勝武士という力士を忘れない……。新型コロナの話題だけではなく。<Number Web> photograph by Kyodo News

2018年7月、岐阜県で開催された大相撲の巡業で「初っ切り」を努めた勝武士(左)。

給料が出ない養成員という身分だが……。

 初っ切りとは相撲の禁じ手やルールなどを滑稽な動きを交えながら演じる余興相撲のことで、体格が大小対照的な力士がコンビを組むケースが多い。明るく周囲を楽しませるムードメーカー的な性格だった勝武士の初っ切りでのコミカルな立ち回りは実に絶妙だった。

 ところで相撲界は番付社会であり横綱から序ノ口まで明確な序列が存在し、風呂や食事の順番も全て上からの番付順であり、地位によって許される身なりも違う。十両以上の力士は給料も支払われる関取として一人前の扱いを受けるが、幕下以下は給料が出ない養成員という身分である。

 勝負の世界に身を置く力士にとって番付こそが全てと言えるが、実際はそうとも言い切れない部分も少なくない。

幕下以下の力士でも様々な役割、活躍の場が。

 各相撲部屋では幕下以下の力士が交代でちゃんこ番を務めるが、そのうちに料理の腕を見込まれた者は「ちゃんこ長」に“昇格”し、部屋の力士たちの食生活を支えることになる。また、普段から機転が利き事務能力に優れた者は土俵に上がる傍ら、師匠の右腕として部屋のマネージャー的な仕事を任されることもある。

“アンコ型”力士でぶつかり稽古の胸を出すのがうまく、関取衆からも頼られる若い衆も各部屋に1人はいるものだ。結びの一番の後に行われる弓取式も基本的には幕下以下の力士が務める。

 とかく主従関係に思われがちな関取衆と付け人の関係だが、実際は付け人が関取に対戦相手についての攻略法をアドバイスするといったケースも珍しくない。

 取組後の竜電に勝武士がその相撲ぶりを身振り手振りで詳細に説明する姿は、相撲記者なら誰もが目にしていた光景だ。体格に恵まれないなどで自身の出世は思うようにいかなくても相撲を熟知する者はいる。竜電にとって勝武士はまさにそんな頼れる“参謀役”であった。

【次ページ】 江戸時代から続く初っ切りの名手として。

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