ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
石川遼、15歳が掴んだ奇跡の初優勝。
思い返すと「まさに社会科見学」。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byKyodo News
posted2020/05/20 11:50
2007年5月20日、史上最年少で優勝を果たした石川遼。少し照れた笑顔を見せながらチャンピオンブレザーを羽織った。
「きょうの主役はここにいるぞ!」
だが、世紀の瞬間が近づくにつれ、そんなベテランが頼もしい存在になっていった。
「立山さんと久保谷健一さん(もうひとりの同伴競技者)の掛け合いがおもしろくて、ずっと笑っていた。緊張しそうな場面になると話しかけてくれて」
優勝争いの真っただ中、最後の9ホールを控えて10番ティに立ったとき、石川は初めて見る大ギャラリーに気圧された。すると突然、立山が石川の手首をつかみ上げ、ボクサーの判定勝ちを伝えるレフリーよろしく「きょうの主役はココにいるぞ!」と叫ぶと、周囲は喝采。重圧になるはずの大観衆は一瞬にして味方になった。
石川はいまも、「実力以上のものが出た。運もあった。奇跡もあった」とどこか他人事のように13年前を振り返る。その一方で快挙を演出してくれた当時の大人たちへの感謝を募らせる。
才能を見出してくれた指導者、出場のチャンスをくれた大会の関係者、温かい目で迎えてくれた先輩プロたち。
「たくさんの人が自分を見ていてくれた。それがなければ、いまはない」
見極める目と研磨は大人の仕事。
いま、新型コロナウイルス感染拡大によるスポーツシーズンの中断を憂いているのはプロアスリートだけではない。
あの頃の石川と同じ、学生アマチュアも大好きな競技で汗を流せないでいる。ゴルフ界のみならず、インターハイをはじめとした他スポーツの全国規模の大会も中止が相次ぎ、大一番を集大成にすると考えていた選手、あるいは将来や進路へのステップとして考えていた選手にしてみれば、やりきれない。
だからこそ、28歳になった石川は「大人が選手の人生をより左右する立場になりうる」と強調した。世に出るきっかけづくりをしてくれたのは、無論自分ではなかった。
「いまこそ、選手を見るスペシャリストの腕の見せ所。情報はそれぞれの業界内で絶えず回っているはず。大人の“真贋”を見極める力が求められる」
原石がいずれ輝くかは、石を見分ける目と研磨次第。それは大人の仕事だ。
そして石川は、悲劇に直面した学生アスリートにも思いを寄せる。
「出たかったインターハイが行われない立場に自分がなったら、ショックで、泣くと思う。選手たちの絶好のアピールの機会もなくなってしまったかもしれない。それでも、見捨てられることはない。学生の皆さんにはこれまでの努力が無駄になってしまったとは捉えてほしくない。仮に受験勉強を一生懸命して、試験が中止になってしまっても、蓄えた知識は無駄にはならないし、人間的な成長がきっとある」