“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
調子乗り世代の怒りと快進撃の記録。
内田篤人「このチームがかなり好き」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph bySnspix/AFLO
posted2020/04/26 11:50
ゴール後のパフォーマンスで会場を沸かせた2007年U-20W杯カナダ大会。ベテランとなった今でも「調子乗り世代」は健在だ。
現地を熱狂させたパフォーマンス。
これまでの鬱憤を晴らすかのような快進撃は、今でも鮮明に記憶している。
だが、ここで記したいのはカナダ・ヴィクトリアという街の熱狂だ。
なぜここまで劇的に変わったのか。それはまさに“調子乗り”と評された、このチームの魅力である「明るさ」に起因する。カナダの人々にインパクトを与えたのが、ゴール後のパフォーマンスだった。
スコットランド戦、FW森島康仁(藤枝MYFC)が先制弾を挙げると、バックスタンド前に次々と選手が集まり、観客に向けて当時軍隊式フィットネスとして世界中でブレイクしていた『ビリーズブートキャンプ』の真似たパフォーマンスを披露。最後方に陣取っているはずのGK林までもが輪に加わったこのパフォーマンスによって、スタジアムは一気に日本のホームと化した。
カナダはサッカーが盛んな国ではない。試合会場となったロイヤルアスレチックパークも元々はクリケット場で、仮設スタンドなどを増設して強引にサッカー場に仕立てたようなスタジアムだった。観客もサッカーファンというよりは、地元ヴィクトリアの市民が興味半分で集まった雰囲気。だからこそ、彼らが行った奇抜なパフォーマンスはカナダ人の心に突き刺さったのだった。
梅崎、青山隼(元・徳島ヴォルティス他)のゴール後も同じパフォーマンスを行うと、試合後にはスタンディングオベーションが巻き起こった。そこでも彼らは全員でパフォーマンスを披露。たった1試合で、言葉が通じないファンの心をわしづかみにしてみせた。
侍、相撲……「僕らは日本代表なので」
当時、輝かしい戦績を残していた日本のアンダー世代にとって、決勝トーナメント進出はさほどトピックになる話題ではない。だが、この街を巻き込んだ熱狂は、やがて国内でも大きな話題として報道され、現地で取材する筆者のもとにも多くの連絡が届くまで広がった。
「あれ、ウケましたね(笑)。ずっとゴールパフォーマンスはどうしようかと話し合っていたんですよ。それでカナダの人も日本の人も理解できるものがいいなと思ったので、世界中で流行っていたビリーズブートキャンプのポーズがわかりやすくていいんじゃないかと思って、試合前にみんなで決めたんです。思った以上にウケたので、今後もいろいろやっていこうと思いますよ」
発案者の1人である槙野が語ったように、その後も彼らはさまざまなパフォーマンスを披露した。
第2戦コスタリカ戦で田中がダイレクトボレーを蹴り込むと、バックスタンドに向かって刀を腰の鞘から抜いて振りかざし、再び鞘に戻す「侍パフォーマンス」を。第3戦のナイジェリア戦後にはバックスタンド前に整列すると、今度は相撲の張り手とすり足を真似た「力士パフォーマンス」をやってみせた。
「やっぱり僕らは日本代表なので、『日本と言えば』というパフォーマンスを考えました。世界中の誰もが日本をイメージするもので知っていると思ったので、これにしました」
そう語る梅崎の笑顔は弾けていた。10番を背負った柏木も「カナダの人たちが喜んで期待してくれるのが分かった。これは応えないと男じゃないでしょう」と誇らしげだった。