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カズがW杯予選に武者震いした日。
福田正博に届いた「来い!」の声。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byAFLO
posted2020/04/08 11:50
最後にドーハで何が起こるかを知っていても1994年のアメリカW杯を夢見たW杯予選の戦いの価値は全く落ちることはない。
ウイングだったカズがストライカーに。
福田のパスはカズに通ったものの、シュートへ持ち込むのは簡単でない。ワンバウンドしたボールは、前ではなくやや手前へ跳ね上がる。
ここでカズが、鮮やかな修正能力を発揮する。歩幅を細かくして足を振り切れる空間を作り出し、左足ボレーで逆サイドネットへボールを運んだのだ。
1990年夏にブラジルから帰国した当初、カズのポジションはウイングだった。読売クラブでも日本代表でも、点取り屋ではなかった。’91年にトッテナムから2ゴールを奪った試合でも、ウイングの性格を色濃く残していた。
それがどうだろう。’92年春にオフトが代表監督に就任すると、ストライカーへ変貌していく。8月のユベントス戦、11月のアジアカップ対イラン戦、’93年3月のアメリカ戦と、大観衆の前でゴールを決めることで自らをアップグレードさせていった。
特筆すべきは得点パターンである。プロフィールでは右足が利き足になっているが、左足のシュートやクロスも精度が高い。両利きと言っても差しつかえない。
‘93年当時は少なかったヘディングシュートも、やがて例外的ではなくなっていく。どこからでもゴールを奪うことのできる幅広さは、肉体的な強さや速さを武器としない彼が、アジアでも抜きん出たゴールゲッターとなっていった理由にあげられるはずだ。
「これでみんなが乗ってくれるといいね」
カズが得点をあげることで、観衆が沸き立ち、チームが勢いに乗る。スタジアムがホームの色に染め上げられていく。
それがまた、カズの勝負強さに磨きをかける。自身への期待をモチベーションに変換し、得点を積み上げていったのだ。
タイを1-0で退けた試合後、カズは言った。
「これでみんなが乗ってくれるといいね」
日本にとっての勝ちパターンと呼べるものが、このタイ戦から作られていったのである。日本は7勝1分けで1次予選を通過した。