両者の決着はついたのか？

　試合は1対0でヤクルトが勝利し、対戦成績を3勝1敗とした。

　まさに、森の見立て通り、池山は野村の教えを忠実に実行し、見事な決勝犠飛を放ったのである。

　この場面について野村に問うと、「もう忘れちゃったよ」とはぐらかされたものの、「前年の敗戦を受けて、選手たちも悔しかったんでしょう。それで必死に野球を学ぼうとした。その成果じゃないのかな？」と小さく笑った。

　両者の話を聞いていて、素朴な疑問が頭に浮かんだ。

「一体、日本一を分け合った両者の決着はついたのだろうか？」、そして、「ヤクルトと西武、どちらが強かったのか？」という問いだった。

「どちらが長生きできるかで勝負だ（笑）」

　野村はこんなことを口にした。

「オレはもう1回、やりたかったよ。“まぁ、引き分けでもいいか”っていう気持ちも少しはあるけど、やっぱり決着はつけたかった。だって、《勝負》という字を考えてみなよ。《勝ち》と《負け》って書くんだよ。《分け》という文字は入らないんだから。

　でも、やっぱり引き分けでいいのかも知れない。とにかく、森に刺激を受けたのは事実。決着がつかないまま終わっちゃったけど、それでいいのかもしれないね」

　そして、最後に冗談めかしてこんな言葉を口にした。

「三度目の対決は、オレと森とどちらが長生きできるかで勝負だ（笑）」

　この言葉から一年余りが経ち、名将は静かに逝った。

　野村の死後、『Number』999号において森に話を聞く機会があり、野村が口にした「長生きで勝負だ」の言葉の感想を尋ねた。すると、森はしばらくの間をおいて静かに言った。

「ふーん、そんなことを言っていたんだね。実に野村さんらしい言葉だね。でも、決着がついたのかどうか、そんなことはもう、どうでもいいことじゃない……」

　それ以外、森は何も口にしなかった。だからこそ、このひと言は、実に深く重い響きを伴って受話器の向こうから耳に届いたのだった――。