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五輪の基幹システムをクラウド化。
NTTから出向した担当者の大仕事。 

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芦部聡

芦部聡Satoshi Ashibe

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posted2020/03/08 18:00

五輪の基幹システムをクラウド化。NTTから出向した担当者の大仕事。<Number Web> photograph by Satoshi Ashibe

舘剛司さん。

【IT部門の責任者】
東京2020大会は、基幹システムがクラウド化される初めての夏季五輪・パラリンピックになるという。技術の進化とともにますます重要になったIT部門を担うのが、組織委員会のテクノロジーサービス局だ。

 走る、投げる、跳ぶ――。生身のアスリートが表現するプリミティブな躍動こそがスポーツの源泉である。人間力のぶつかり合いとも言えるオリンピックだが、舞台裏の進化は目覚ましいものがある。五輪のスポンサーには技術系も多く、アリババやインテル、パナソニックといった世界的企業が「ワールドワイドオリンピックパートナー」に名を連ね、最先端のテクノロジーを提供している。

 だが、五輪のハイテク化って? 100m走はいまも昔も100m走だし、何が変わっているのか理解しづらいよなあ……。

「2012年のロンドン大会はスマホの登場によって通信量が急増し、ネット回線が逼迫。接続速度が低下したりといった不具合が一部で発生しました。トラフィックの増大にも耐えられる超高速通信網の整備も“ハイテク化”と言えるかもしれません」

 東京2020組織委員会のITセクションを統括する、テクノロジーサービス局の局長・舘剛司さんは語る。インフラというのはつつがなく機能して当たり前のものだが、進化に気づきにくい部分でもある。

「東京2020における最大の変化は、基幹システムのクラウド化でしょう。各会場で計測された競技結果やアスリートの過去の成績などを一元的に管理し、放送局やウェブサイトなどにリアルタイムで配信する競技情報システムのクラウド化は平昌冬季五輪で実現しましたが、夏季五輪では東京が初となります。旧来は開催都市にデータセンターを設置してすべてのシステムを集約していましたが、今大会では世界中に分散したサーバをネットワークでつないでいる。コストパフォーマンスに優れ、なおかつ信頼性も高いクラウドサービスは、五輪のような一過性のプロジェクトには最適ですね。こういったクラウド化、遠隔化というトレンドを支えるためには通信網の品質がより重要になってきているとも言えます」

 '18年から“READY STEADY TOKYO”と題した、運営面の演習を兼ねたテストイベントが各競技でおこなわれ、IT関係のテストもこの場で実施している。

「テストイベントでハード面の問題点を把握できましたが、最大の課題はコミュニケーションだということを実感しています。組織委員会は出自の違うスタッフの集合体。私はNTTから出向していますが、行政から派遣されてきているスタッフもいますし、バックグラウンドはさまざま。仕事の進め方も違うし、軋轢が生じる場面もあります。『この予算はそちらの局が負担するべき』みたいな揉めごともあるけど、われわれが本当に向かい合うべきは海外からやってくるアスリートであり、競技連盟の方々であり、放送局であり、言わば世界を相手にするわけです。内向きの些末な議論に気を取られているヒマはない(笑)。私を含めたほとんどのスタッフが五輪・パラリンピックという国際的な大イベントに初めて関わるわけで、分からないことだらけ。問題はひとつずつ解決するしかありません」

ハイテク部門の、アナログな悩み。

 ハイテク部門のリーダーの悩みは、じつにアナログで人間くさい。

「五輪にたずさわるという経験は、われわれのような裏方のスタッフにとっても得難い財産になるはずです。一部の関係者だけでなく、多くの若い世代にも経験してほしいという思いから、『オープンイノベーションチャレンジ』というイベントを開催しました。東京大会で初採用されるアーバンスポーツの観戦体験を充実させるアプリケーションの開発コンテストで、12チームが最終審査に臨みます。審査員をお願いした日本フェンシング協会の太田雄貴会長は、『五輪はアスリートのためだけのものではない』と仰っていましたが、日本の若いエンジニアにとっても東京2020が貴重なレガシーとなることを願っています」

 東京五輪で萌芽したスポーツテクノロジーが世界を席巻する未来がくるかも!?

舘剛司(たちたけし)

1963年7月26日、大阪府生まれ。1989年、大阪大学大学院・修士課程修了。同年、日本電信電話株式会社(NTT)入社。次世代IPネットワークの開発、サイバーセキュリティ分野の研究開発戦略の策定などに従事した後、カリフォルニア大学バークレー校経営工学・修士課程修了。'13年より米国のR&D子会社設立などにあたった。'14年から東京2020組織委員会へ出向し、テクノロジーサービス局局長に。ネットワーク・情報システムなど技術全般に関する計画策定、開発、運用、サポートを統括。

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