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高卒メジャーへの逆風は消えたか。
天理の1年生投手・達孝太が語る夢。 

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byHideki Sugiyama

posted2020/02/15 19:00

高卒メジャーへの逆風は消えたか。天理の1年生投手・達孝太が語る夢。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

2017年の夏の甲子園でベスト4に勝ち進んで以来の甲子園にやってくる天理高校。達孝太が見られるのも楽しみだ。

甲子園は成長するための場所である。

 もっとも、達は甲子園を軽視しているわけではない。すでに出場切符を得ているこの春のセンバツに向けての意気込みを聞くと、夢舞台に心を踊らせる純真無垢な高校生の顔になった。

「甲子園という舞台は、いつもよりたくさんの人が見ているわけで、その中でいかに、自分が落ち着いていつも以上のピッチングができるかが大事だと思います」

 甲子園には高校野球トップクラスの選手が集まり、全国的な注目が集まる。自分の力量が現時点でどのレベルにあるかを測る絶好の機会と捉えている。達にとって“上”のレベルを知るための舞台なのだ。

 メジャーリーガーを目指す中に「甲子園」が存在する。高校の時点で長期的な将来像を語る選手は多くないため、達の存在が少し特別に見えてしまう可能性はある。だがそれは、野球界には夢を語りにくい空気があるからなのかもしれない。

菊池雄星が受けた、世間の反発。

 過去を振り返っても、高校生のトップ選手がメジャーを口にした途端、歓迎されるよりも、非難を受けることは多かった。鮮明に記憶に残っているのは、花巻東高校時代、ドラフト直前に日米20球団と面談した菊池雄星(マリナーズ)のケースだろう。

 2009年に春・夏の甲子園を沸かせた菊池は「時の人」となったが、メジャーの夢を語った途端、逆風にさらされた。

 花巻東の佐々木洋監督が、かつてこんな話をしていた。

「僕は雄星に好きな進路を選べと言っていました。俺は叩かれても構わない。行きたいところに行きなさい。後押しするからと。人と違うことをやってもらいたいし、人と違う道を行ってもらいたいという話をしたこともありましたから。新しい時代は必ず来る。やるなら扉は先に開け、と。

 しかし実際は、僕が思っていたより、その扉は重かった。ちょっとでも、扉を開けた瞬間にすごい勢いで風が入ってきました。雄星も叩かれましたけど、学校には手紙がバンバン来ましたし、ファックスも入りました。『勘違いしているんじゃない』と」

【次ページ】 佐々木監督が今も感じている後悔。

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