イチ流に触れてBACK NUMBER
史上最高の遊撃手ジーターが殿堂へ。
“後継者”イチローとの特別な関係。
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byKyodo News
posted2020/01/25 11:50
2012年から2014年までヤンキースのチームメイトとしてプレーしたジーターとイチロー。勝利をハイタッチで祝う。
「イチ、ヤンキースに来てくれよ」
そのふたりの初めての出会いは'01年4月24日。日本から来たWIZARD(魔法使い)として、デビューから1カ月足らず。走攻守に於いて、驚愕のパフォーマンスで全米を震撼させていたイチローさんの“聖地・ヤンキースタジアム”でのデビュー戦だった。
第1打席。先発ロジャー・クレメンスから放った一打は遊撃を守るジーターへの平凡なゴロ。しかし、一塁は間一髪のタイミングでアウト。その時の驚くべきスピードをジーター氏は現役引退後に立ち上げたウエブサイト『プレーヤーズ・トリビューン』でこう伝えた。
「ワオッ! 彼は誰なんだ? 飛んでるとでも言うのか? 本当に驚いたよ」
「イチ、ヤンキースに来てくれよ」
それから12年。ふたりは二塁ベース上で会話を楽しみ、オールスターでは毎年友情を深めあった。そして、いつだったであろうか。マリナーズのイチローにヤンキースのジーターが驚きの言葉をかけた。これも二塁ベース上での出来事だった。
「イチ、ヤンキースに来てくれよ。一緒にやろうぜ」
その言葉が端緒となったかどうかは不明だが、'12年7月23日に現実のものとなる。イチロー、ヤンキースへの電撃移籍。名門ヤンキースが3年ぶりのワールドシリーズ制覇に向け白羽の矢を立てたのだった。
心に響いたジーターの訓示。
移籍後、67試合で227打数73安打、打率.322。地区優勝に貢献したイチローはシャンペンファイトを前にしたキャプテンの訓示に心を動かされた。
「ジーターが言っていたんですけど、今日で練習試合は終わりだみたいなことを言っていた。さすがだなと思いました。このチームはあくまでもここがファーストステップとして捉えているので、今、この瞬間というのは今日だけで過去のものとして、明日から足を地につけてやっていきたい」
目指すものはあくまでも世界一。ヤンキースでプレーする意味、重み、価値観を示したキャプテンの言葉はイチローの心に響いた。