水沼貴史のNice Middle!BACK NUMBER
水沼貴史が見たVAR担当の過酷さ。
「相当なストレス」がかかる理由。
text by
水沼貴史Takashi Mizunuma
photograph byKiichi Matsumoto
posted2020/01/28 11:00
今季からJ1リーグで導入される「VAR」。昨年のルヴァンカップ決勝では、いくつかのシーンでVAR判定が行われた。
VARについて講習を受けた。
<J1参入プレーオフ決定戦の解説を担当した水沼氏は、試合前にVARの講習を受け、審判の仕事ぶりに触れたのだという。その過酷さを身をもって体感した。>
実はプレーオフの試合前、VARについて講習を受けました。そこで強く感じたのは、VARを担当する審判員が相当なストレスを抱えながら行なっているということ。それを忘れてほしくない。
密室の空間で12台のモニターの前に座り、問題になりそうな事象を90分間探し続けるわけです。
APP(アタッキング・ポゼッション・フェイズ)の見極めも大変で、「ゴールシーンの少し前にファウルがあった」「ゴールシーンを遡ると関与した選手の位置がオフサイドだった」など、判定に大きく関わる“攻撃の起点”を絶えずチェックしています。
プレーが切れれば「解除」と確認し合いながら、また次、また次。必要があればすぐに主審に交信して、最適の映像を選んで提供する。Jリーグの場合は現状、AVAR(アシスタントVAR)とリプレーオペレーターを合わせた3人で遂行するわけですから、並大抵のことではないと思うんです。
J1参入プレーオフではVARを使用した判定を行う機会はありませんでしたが、そんな試合でもずっと稼働しているということですね。
思い出したのは成田空港の管制塔。
VOR(ビデオオペレーションルーム)ではピッチのレフェリーと同じ格好で業務に当たります。
この部屋を見て思い出したのは、以前、成田空港の管制塔を見学する機会に恵まれた時のこと。もう昔の話なので現在は変わっているかもしまれんが、そこにいた管制官の方々は「神経を使う仕事だから、少しでもリラックスできるように」と普段着で業務を行っていたんです。
VARも同じような空間で行うわけですから、もっと楽な格好でもいいのでは?と疑問を投げると、「第4審判が交代を余儀なくされる緊急時に備えて、いつでもピッチに出る準備を」という考えでユニホーム着用を義務付けているのだそうです。
レフェリーも同じ人間。私たちが思う以上に大変な作業がVARにはある。レフェリーと選手がリスペクトし合うように、VARの審判員の方にも同様のリスペクトが必要だと強く感じましたね。