水沼貴史のNice Middle!BACK NUMBER
水沼貴史が見たVAR担当の過酷さ。
「相当なストレス」がかかる理由。
text by
水沼貴史Takashi Mizunuma
photograph byKiichi Matsumoto
posted2020/01/28 11:00
今季からJ1リーグで導入される「VAR」。昨年のルヴァンカップ決勝では、いくつかのシーンでVAR判定が行われた。
VARに対する理解を進めるために。
<ただ、先日のU-23アジア選手権で話題になったように、その介入の範囲は議論を呼んでいる。この大会で日本代表はレッドカード1枚、2度のPKがVARによって下された。>
VARが介入する範囲について多くの人が正確に理解するまでに時間がかかると思います。
VARは得点機会、PKかどうか、退場に値するか、警告・退場の人間違いの4点に対し、主審にはっきりとした明白な間違いがあった、または重要な事象を見落としたと疑われる場合のみに発動されるもので、役割はあくまで主審の補助。つまり、最終ジャッジは主審の判断によって下されるということです。
ハンドの判定や危険なファウルへのジャッジが厳しくなっているだけに、故意ではない反則に対する判定に苦しむ場面も出てくるでしょう。また、“明白な間違い”と言えない際どいシーンでは主審の判断が尊重されるため、なぜ取らないの? となることもあるはず。
だからこそ、選手はルールをより深く知る必要があるし、PKに直結するペナルティエリア内では特にVARを意識したプレーが求められる。これまで見過ごされてきたことが映像に残るため、ある意味、ごまかしが利かなくなった。いわゆる“マリーシア”みたいなものも少なくなっていくでしょうし、審判とのコミュニケーションも戦う上で重要なファクターになると思います。
解説者としてもプレッシャーがかかる。
同様に我々、解説者も審判の間でどんな議論が行われているのか、どこが焦点なのかをしっかり伝えることが求められる。これまで以上にプレッシャーがかかりますね。
見ている人にわかりやすく伝えるという点では、会場にいる観客にどう説明していくか。そこも課題の1つだと思います。スタジアムには電光掲示板がありますが、例えばそこで議論の対象となっているプレーの映像を流すとか、ルールを説明する映像の制作、それこそ試合前に流す映像で説明をしてもいいのかもしれない。
よりサッカーを楽しんでもらうために、そういった工夫はもっと求めていきたい。プレミアリーグですら試合ごとにたくさん議論されていますから、Jリーグもその都度、議論を重ねながら理解を深めていきたいところです。
J開幕前、審判団は各チームに説明に回るようです。試合を長く中断させない、どこまで介入するか、観客にはどう伝えるか。VAR導入への課題はたくさんありますが、世界基準に沿ったレフェリングは選手たちの強化にもつながります。
選手、審判、そして観る側の我々もしっかりと理解し、日本サッカーを高めていければいいなと思います。
(構成/谷川良介)