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元大関照ノ富士、独白。
苦悩の2年間を乗り越え、関取復帰へ。 

text by

佐藤祥子

佐藤祥子Shoko Sato

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photograph byKyodo News

posted2019/12/27 11:50

元大関照ノ富士、独白。苦悩の2年間を乗り越え、関取復帰へ。<Number Web> photograph by Kyodo News

年内最後となる九州場所の13日目。対馬洋を破って幕下で7戦全勝で優勝した元大関の照ノ富士。

落ちていた時も変わらず応援してくれた人たち。

 もちろん大関だったプライドもあったけれど、番付がすべての世界ですから。今まで付け人にやってもらっていた雑事も自分でして、そこは自分で納得してやっていました。

 悔しい部分もあったけど、それはひたすら筋トレにぶつけたんです。

 支えてくれる人って、誰にでもいると思う。

 大関に上がって落ちて、今回、また十両に上がったことで、「つらい時に誰が一緒にいてくれたのか」と、周囲が見えるようにもなりました。

 自分が落ちていた時も変わらず応援してくれた人たちに対し、「もう1回、絶対やってやります」との思いなんです。「照ノ富士を応援していてよかったよ」と言ってもらえるように――。

 そうそう、大関だった頃は、本当に1日じゅう、毎日、相撲のことを考えていました。

 同じ部屋で、目の前に横綱(日馬富士 70代横綱)もいたし、「横綱になりたい!」との気持ちが強くて、車のナンバーを「72」(71代鶴竜に続く横綱として)にしていたくらいなんです。「72」と書いた紙を、朝起きた時に見えるように天井に貼って、いつも目に入るようにしていたくらいでした。

 今は、もちろん目標が全然違う。

 今年じゅうに十両に上がると決めて、この目標はクリアできました。来年の目標は7月の名古屋場所までに幕内に上がることです。今の僕は、たとえ幕内に上がっても、何年もダラダラとは相撲を続けたくない。

「もう1回、優勝できるのか」

「横綱と対戦して勝てるのか」

 そして「どこまで自分を鍛えることができるか」――はっきりと目標を持って、土俵に上がっていこうと思っています。

「いろんなことに動揺しなくなった感じです」

 元大関に、「生まれ変わった感じ?」と問うてみた。

「そうですね……。感情がない……。昔だったらすぐにイラついたりしたけれど、いろんなことに動揺しなくなった感じです」

「それは“悟った”ってことかしら?」

「サトル? 悟るって、どういう意味ですか?」

 言葉の意味はわからなくとも、おそらくその境地にいるのだろう。

 そして、今、やっと相撲を見られるようになったという。真新しい白廻しをつけた元大関は、「夢に相撲が出てくるほどなんですよ」と、かすかに微笑んでいた。

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