One story of the fieldBACK NUMBER
日大アメフト部の真実、その光と影(後編)
彼らは「タックル」を取り戻せたのか。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKiichi Matsumoto
posted2019/12/28 19:05
最終戦後、笑顔を浮かべる宮川泰介ら選手たち。彼らは純粋に試合にフォーカスした一方で、時代と部の変容をどう感じていたのだろうか。
コンタクトした瞬間、心の芯が。
年が明けて春が過ぎ、夏を越えて、2019年の9月にリーグ戦に復帰しても相手は実質二部のチームである。笛が鳴り、一度でも体をぶつけ合えば力量差は体に伝わってくる。
ハドルで贄田が叫んだ。
「相手は関係ねえ! 俺たちがめざしてんのは、日本一のチームだ!」
ただ、どれだけ心を鼓舞しても相手とコンタクトした瞬間に心の芯が冷めてしまう。どんどん開いていく点差が目に入ってしまう。
俺たちは全力を出せているのか。そもそもこのチームにはどれだけの力があるのか。相変わらず、手応えはなかった。
さまよう名門。そんな彼らにとって、ただひとつ道標のようなものがあったとすれば、それは宮川の存在ではなかっただろうか。
「なんか男前になったというか」
フェニックスが公式戦に復帰しても宮川は試合に出られなかった。検察の処分が出るまでは自粛すると決めていた。刻々とゲームが消化され、残された時間が少なくなっていくなかでも、彼は静かだった。
何も求めていないかのように静かだった。
いつでも出られるように練習で汗を流し、ミーティングでは副将として、みんなが言いにくいことを監督に意見し、そして週末になると厚紙でできたバインダーとペンを手にしてピッチサイドに立った。
彼が見ているのは相手の陣形であり、それに自軍がどう対処するか、試合中の戦術決定のためにメモを取っていた。
そうした日々をひたすら繰り返していた。
「ディフェンスラインとしては、大学ナンバーワンのプレーヤーでしょう」
橋詰がそう認める、チーム一番の肉体を持つ男はユニホームを汚すことなく、週末がくるたびに黙々とペンを走らせた。あまりにもずっと握っているので、そのバインダーの厚紙はいつしか彼の指の形に擦り切れていた。
仲間が苛立っていても表情をさして変えず、はしゃいでいても少し頬を緩めるだけ。迷いのなかにいるチームにあって、宮川のまわりだけ静謐で確かな空気が流れているようだった。
「初めて見たときはそれほど気持ちを表現するタイプではなかったんですが、次第にまわりに声をかけたり、気を配ったりするようになっていきましたね」
橋詰はあのタックルの後の宮川を見てきた。
「移動のときには先頭に立ってくれるし、これは言わなきゃいけないということを口にしてくれる。なんか男前になったというか……」
贄田たちも見てきた。