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DeNA戦力外から社会人の頂点へ。
須田幸太が「自分の球」を諦めたとき。
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byKyodo News
posted2020/01/01 11:30
JFE東日本が都市対抗野球で初の優勝を飾った瞬間――その歓喜の輪の中心に、あの須田幸太の姿があった。
「優勝できるんじゃないか」という雰囲気が。
都市対抗優勝までの日々を振り返り、転機の時期だったと思い当たるのは6月下旬だ。
大会の開幕を約3週間後に控えていたJFE東日本は、ベイスターズのファームチーム、社会人野球日本代表候補との練習試合を連日行った。
「そこからチーム状況がやたらと悪くなって……」
須田の口から意外な名前がこぼれる。
「たぶん、東ですね。東とやって3者連続三振を食らったんです」
2018年のセ・リーグ新人王、ベイスターズの東克樹のことだ。2年目のシーズン、調子が上がらずファームで調整中だった左腕は、それでも社会人を圧倒した。
JFE東日本の打者たちは、悔しがるより興奮していた。「あれがプロか」と、驚きと憧憬は入り混じった。
そして翌日の社会人日本代表候補との一戦で、打線が爆発する。1年目の今川優馬が3打席連続ホームランを放つなど、社会人トップクラスの投手を打ち崩して勝ったのだ。
「東の球を見てるから全然大したことない、みたいな感覚を持ってしまったのかもしれません。『これなら優勝できるんじゃないか』って雰囲気は絶対にあったと思います。調子に乗ったというか……」
「いっきに『やれる』という雰囲気に」
須田も、優勝の可能性は十分にあると考えていた。打力を強みに急成長しつつあるチームには覚えがあった。
「強くなり始めたころのベイスターズの感じですよね。筒香(嘉智)が出てきて、チャモさん(ロペス)が入って、(宮崎)敏郎が出てきて。あの2015~2016年ごろの雰囲気に似ていました。みんながいつもどおりやれば、噛み合いさえすれば、戦力的には優勝できる。社会人ジャパンと試合をしたときの8割の力を出せれば勝てるな、と思っていました」
しかし、7月に入ってから都市対抗開幕を迎えるまでの練習試合で4連敗。いびつな自信は仇となり、チームの歯車は噛み合いを失った。
暗雲を薙ぎ払ったのは、都市対抗の初戦(2回戦)、大阪ガス戦に先発した本田健一郎だった。須田が「うちのエース」と評する23歳は、5回を被安打1、無失点の好投を見せる。下降線はそこで止まった。
0-0のまま進んだ試合の9回表に、須田は2010年以来9年ぶりに都市対抗での登板機会を得た。4イニング目、ノーアウト一二塁から始まるタイブレークの12回に2点を失ったものの、その裏に3点を取り返したJFE東日本がサヨナラ勝ちを収めた。
「初戦の勝利がすべて」と須田は言う。
「2014年、2016年と初戦敗退だったので、負けていたら3回連続になるところでした。去年の得点圏打率がよくなかった、しかも左ピッチャーを打てなかった中澤(彰太)がサヨナラヒットを打ったところから、いっきに『やれる』という雰囲気になった」
ここからは上り坂をひと息に駆け上がる。3回戦の明治安田生命戦、2点差を追いついた9回裏に満塁ホームランでサヨナラ勝ち。準々決勝では粘るパナソニックを下して7年ぶりのベスト4入りを果たす。勢いに乗るJFE東日本は東芝との準決勝に駒を進めた。