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秋山翔吾が西武に残したスピリッツ。
負けているときに、どう振る舞うか。
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph byKyodo News
posted2019/11/28 20:30
10月には外崎修汰や源田壮亮とともに台風19号の被害を受けた埼玉・坂戸と東松山の避難所を訪れ、激励した。
シーズン中に発した秋山の言葉。
今シーズン序盤は思わぬ不振で苦しんだ秋山だったが、チームに向けた思いは常に変わらなかった。今年4月、打撃不振に陥った秋山が試合後、いつものように室内練習場で打撃マシンに向かったあと、言った言葉が強く印象に残っている。
「去年、10年ぶりにリーグ優勝しました。移籍した浅村や僕、中村さん、栗山さんは3年連続Bクラス(’14~16年)の苦しさを知っています。でも昨年のレギュラーメンバーは開幕から勝ち続けて、逃げ切ったという成功体験しかない。普通にやれば勝てる、何も変えなくても勝てるだろうと思っている可能性は高い。
だけど、実は負けが込んだときにどういう振る舞いをするかが大事だと思うんです。そういう意味で、今年は若い選手がいろいろなことに気づいて、優勝し続けるためには何が必要なのかを知って、ライオンズが強くなるための礎になるシーズンになる気がするんですよ」
結果、ライオンズは連覇を果たしたが、2年連続ファイナルステージで敗れ、日本一という夢は叶わなかった。ポストシーズンを勝ち抜くには、リーグ制覇とは違う強さが必要であることを誰もが痛感したシーズンだった。
「早くバント練習行ってこいよ」
秋山が語るチームの理想像は明確だ。
「たとえばある選手がバントを失敗した。そういうときに先輩だけではなく、後輩が指摘できて、そういう雰囲気の中でも思い切ってプレーできるチームが理想です。自分にも人にも厳しくできる選手が出てきてくれればいいなと思います。
僕はその姿勢を栗山さんから学びました。バントを失敗した試合のあとにウェートトレーニングをしていて怒られたこともありますよ。『なんでこんなところでトレーニングしてるんだ。早くバント練習行ってこいよ』って。その一言で僕は気づけた。それを言える選手がいないと、チームとしていちばん何が大事なのかを判断できなくなるんです。誰が抜けても、それを後輩が実践できるチームでなければいけない。そういうチームは強いし、だからホークスは強いんですよ」
今こうして春先の秋山の言葉を振り返ると、チームへの置き土産であるかのようにも聞こえてくる。
メジャーの数球団が秋山の獲得に向けて動いていると聞く。行く先はまだわからないが、これまでプロ9年間、自分の打ち立てた記録と戦い、チームのことを思って戦ってきた秋山が海外移籍を実現する可能性は高い。秋山のスピリッツをライオンズの選手たちはどのような形で受け継いでいくのか――。来季が楽しみである。