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「人間の脆さを感じた1年でした」
DeNA梶谷隆幸、崖っぷちからの生還。
 

text by

石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

PROFILE

photograph byKYODO

posted2019/11/10 11:00

「人間の脆さを感じた1年でした」DeNA梶谷隆幸、崖っぷちからの生還。<Number Web> photograph by KYODO

2013年から'17年まで5年連続で2ケタ本塁打を記録してきた。ここ2年はそれぞれ出場41試合と苦しんでいる

自分の心との戦い。

 どうして呼んでくれないのか、と思うことはなかったのだろうか。

「最初はそう思うときも正直ありましたけど、それを考えても仕方がないし、ファームで数字を残すしかない。とにかく途中からそういうことをまったく思わないようにして、現状だけを見つめて野球に取り組んでいました」

 自分の心との戦い。プロ13年目にして梶谷は、若手と一緒に汗をかきながら自分のアイデンティティーとはなにかを探る時間を過ごす。ただひたすらに、淡々と。

 とはいえファームで好調にも関わらず、一軍に呼ばれない現状。懸念したのは、梶谷のトレードだ。チームは優勝争いにからみつつあったが、投手のやりくりに難儀しており、梶谷ほどの打者であればトレード要員として、他球団から戦力になるピッチャーを獲ることも可能かと思えた。

ついにチャンスが訪れる。

 のちに筒香嘉智がポスティングでチームを離れる意思を示すことを考えれば、長打力があり、また年長者としてチームを引っぱることのできる梶谷を放出することはありえないのだが、夏場はその動向が気になった。

「それは僕も思いましたね」

 梶谷は正直に言った。

「そういうことでチャンスをもらえれば……と、人間は弱いので思ってしまうのですが、二軍でちゃんとできていない奴がよそに行ったとしてもまず無理でしょ。だから、そんなことを思うよりもまずは今できることをしっかりやろうと」

 そしてついにチャンスは訪れる。

 8月23日、東京ドームで行われた巨人戦。梶谷は3カ月半ぶりに一軍登録されると、1番・ライトでスタメン出場を果たす。

 2回2死三塁の場面で、桜井俊貴からライトポール際へ今季1号となる2ランを放つと、7回にはセンター前のヒットで出塁し、すぐさま盗塁を決めた。打撃と脚で躍動した梶谷は、この試合前まで4戦2得点だったチームに勢いを与え勝利に貢献した。

【次ページ】 「なにか残さないと、もう来年はない」

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梶谷隆幸

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