“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
U-17W杯、オランダ撃破は必然だった。
西川潤と若月大和が秘める強い意志。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byGetty Images
posted2019/10/30 08:00
欧州王者のオランダ相手に2ゴールを決めたFW若月大和(右)。ゴール後にサブメンバーに駆け寄った。
3ゴールすべてに絡んだ2トップ。
36分、ボランチの藤田譲瑠チマ(東京ヴェルディユース)からの縦パスを落ちてきた西川が受けると、そのまま縦にドリブルを仕掛ける。そのときオランダの4バックに対し、左サイドにMF三戸舜介(JFAアカデミー福島U-18)が、相手DFの間のスペースに若月が走り出していた。
西川はこの2人の動きをよく見てから、三戸へパスを出すと見せかけて若月へ針の穴を通すようなスルーパスを送る。鮮やかなコントロールで抜け出した若月はDFラインをぶち抜いてゴール左隅に流し込んだ。
2点目のシーンは69分。右サイドでMF田中聡(湘南ベルマーレU-18)が鋭い寄せでボールを奪うと、ここもポジションを落としていた西川が顔を出して、フリーで横パスを受ける。その瞬間、若月はバラバラになっているオランダDFラインの間のスペースに立った。それを見ていた西川は左足で正確な縦パスを打ち込むと、若月が2タッチで持ち出してゴール左隅に右足のシュートを突き刺した。
そして、ダメ押しの3点目は77分に生まれた。自陣右サイドでボールを持ったDF中野伸哉(サガン鳥栖U-18)がDFラインの裏に抜け出そうとした若月にロングフィード。若月はこれを胸でトラップしキープすると、フォローに来たMF成岡輝瑠(清水エスパルスユース)に落とし、そのまま右へ流れてドリブルコースを作った。成岡のシュートのこぼれを若月が再び拾うと、浮き球のパスを送り込んだ。これがブロックに来た相手DFの手に当たり、VARの結果、PK。10番の西川がきっちりと決め、試合を締めくくった。
3ゴールすべてに絡み、勝利の立役者となったこの2人はU-17W杯に並々ならぬ意欲を持って臨んでいた――。
U-20W杯で苦渋を嘗めた西川。
西川はすでに今年5月から開催されたFIFA U-20W杯に飛び級で出場。一足先に本物の世界を経験した。だが、大会で苦しい思いを味わった。
グループリーグ初戦のエクアドル戦に途中出場、第3戦のイタリア戦とラウンド16の韓国戦ではスタメン出場した。だが、どの試合でも納得のいくプレーができなかった。スピードに乗ったドリブル突破や、サイドからパスを引き出す動きは才能の片鱗を見せたが、日本代表として世界で戦うプレッシャーは想像以上に大きなものだと痛感した。
「初戦のエクアドル戦できっかけを掴めなかった。『出たからには点を獲らないといけない』という思いが強すぎて、イタリア戦でも空回りをしてしまった。この代表に入った当初は、上のカテゴリーでやるのが初めてだったので、Jリーグで活躍する選手たちと一緒にやれるのは刺激になったし、加えて僕は(U-20W杯の直前に)滑り込みでチームに入ってきた分、まずは自分の良さを周りに分かってもらおうと割り切って取り組めていたので、楽しかったんです。でも、いざU-20W杯のメンバーに入ったら……責任感は全然違いました。
自分の良さを出そう、出せたという楽しみから、一転して、『日本代表として恥じないプレーをしないといけない』と思いすぎてしまったんです。そこで『思い切ってやろう』と言うメンタリティーにはなれなかった……。逆に『自分が責任を負わなければならない』という思いの方が強くなってしまったんです」
この話をしている彼の表情から笑顔が消えていた。待ち望んだW杯の舞台のはずなのに、端から見ると追い込まれているように見えた。年齢的にいえばU-20日本代表では下の方。もっと伸び伸びとやってもいいのではと思えたが、日本を代表するプレッシャーはそんな単純なものではなく、彼から余裕を奪っていくのが分かった。