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<特別対談 後編>
室屋義秀(パイロット)×野村忠宏(柔道家)
「好きなこと、だから続けられる」
text by
別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu
photograph byTadashi Shirasawa
posted2019/12/20 11:30
やっぱり好きなことだから頑張れる。
室屋 やっぱり好きなことだから頑張れる部分はありますよね。自分にとっても飛行機というのは「好きなこと」なんです。この年まで楽しみを続けられているだけという感じで、とても幸せだなと思います。もちろん訓練とか、日々の積み重ねというのは辛いことの方が多いです。でも、一歩自分の限界を超えた瞬間だとか、世界の舞台で勝負に勝った瞬間とか、そういった時の嬉しさというのは、積み重ねて来たぶんに比例した大きさがあると思うので、それを味わっているから未だに競技を続けていられるんだと思います。
野村 たしかにそれはそうかもしれません。よく「モチベーションを維持する方法」を聞かれるんですけど、現役時代はそういう方法自体が必要ないと思っていました。柔道を選んだのも自分だし、世界を目指すチャレンジをしたのも自分。40歳まで現役を続けたのも、全て自分で決めたことなんですよね。人に言われてやったことじゃないし、人に決められた道でもない。やっぱり「柔道が好き」という気持ちがあって、挑戦したい気持ちがあった。その中で地獄みたいな苦しさも味わったけれど、おかげで誰も経験出来ないような感動や喜びにも出会えた。だから、モチベーションをあげなきゃ行けないと思うようであれば、もう引退したほうが良いというくらいの気持ちで柔道をやっていました。
室屋 それは全く同じですね。だから「なんでそんな大変なことを続けられるんですか?」と言われても自分の中では「遊んでいるようなものだしなぁ……」というところもあって(笑)。みんながテレビゲームや携帯ゲームをやっているのとそんなに変わらないと思います。なんか、楽しいからやっているだけなんですよね。
野村 もちろん五輪で優勝した時の満足感や達成感でちょっと気持ちが落ちる瞬間もありますけどね。でも、やっぱり柔道が好きだから、チャレンジしたいと思う。夢があるから、また自然とモチベーションや気持ちは上がっていく。それが自分にとっての柔道だから、やっぱりそれは特別なものだったんですよね。
室屋 もちろん目標達成までの過程としては、苦しい場面もありますけど、まぁ面白いからやっているということに尽きますよね。意外と多くの人が「あなたの好きなことは何ですか?」と聞くと、ハッキリと答えられない。自分の心の中を覗いてみて何が好きなのかさえ分かってしまえば、その道を追い求めていくと、好きなことから近い場所で生きていくことは意外とできるんじゃないかな、という風には感じています。