スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「ヤマナカ、ダァッシュ」が初切符。
ラグビーW杯戦士の選出で思うこと。
posted2019/08/30 14:15
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Kyodo News
ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフが、ラグビーW杯を戦う31人の名前を読み上げた。
オールブラックス出身、正攻法を重んじる人物だけあって、セレクションには大きなサプライズはなし。
それでも、フッカーの北出卓也(サントリー)とウィングのアタアタ・モエアキオラ(神戸製鋼)の選出がちょっとしたサプライズ。
ジェイミーは会見の席上で説明責任を果たし、北出は同じポジションの堀越康介(サントリー)と比較した場合、ラインアウトスローの安定性で上回っていたという。ラインアウトは日本の生命線。専門的なスキルが重視されていることがうかがえた。
また、モエアキオラは前哨戦であまり出番がなかったことで意外な選出と映ったが、前哨戦のパシフィック・ネーションズカップ(以下、PNC)では、「同じメンバーで戦い、チームとしての熟成度を高めることを優先させたため、モエアキオラには十分なプレー時間が与えられなかった」と説明した。
つまり、PNCの先発メンバーが、そのままW杯での先発になる公算が強いということだ。
正攻法の人らしい発想だ。
「ヤマナカ、ダァッシュ!!」
感慨深い選出もある。
フルバックの山中亮平(神戸製鋼)は、前回大会で当時のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチに絞りに絞られたものの、最終的にメンバーには選ばれなかった。
2015年、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』でエディーさんが取り上げられた時のこと。
練習中の映像で、「ヤマナカ、ダァッシュ!!」というエディーさんの恐ろしい声が思いっきり流れていた。
当時、山中が神戸に戻ったあと、W杯を前にして神戸製鋼からエディー・ジャパンへの応援メッセージのVTRが届けられると、グラウンドでダッシュしている山中の姿が映り込んでいたというオチまであった(もちろん、山中が献身的に協力したものである)。
今回も危うい立場にはあった。しかし、8月10日に行われたアメリカとの対戦で、ミスもあったものの、ルーズボールへの献身的なセービングや、そして長い距離を走り切ってのトライで評価をグンと上げた。
最後のアピールチャンスを山中はモノにしたのだ。選手のハードワークが報われるのを見るのは、うれしいものだ。