ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
田中恒成が予想外の難敵を沈めV2。
井上、村田を追う大器ゆえの焦燥感。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byKyodo News
posted2019/08/26 11:45
高校時代から超エリートコースを歩んできた田中恒成は、プロでも14勝0敗。スターへの道を確実に歩いている。
「日本人選手がやられる典型的なパターン」
その後もゴンサレスがすいすいと田中の攻撃をかわしながら、軽打をヒットするという展開が続く。テレビ解説を務めた元WBC世界バンタム級王者の山中慎介さんは「日本人選手がサウスポーにやられる典型的なパターンだった」と表現したのは言いえて妙だ。
日本人選手の前進をことごとくかわし、涼しい顔(そう見える)で勝利したサウスポーの外国人選手が過去に何人いたことだろう。
7回が始まる前に、田中のトレーナーで父の斉さんがコーナーで口にした言葉も山中さんの意味するところに近い。
「このままいくと、木村とカニサレスのようになるぞ」
昨年9月、田中にタイトルを奪われた木村翔(青木)は今年5月、1階級下げてWBA世界ライト・フライ級王者のカルロス・カニサレス(ベネズエラ)に挑戦した。パワーとスタミナに自信を持つ木村は前に出続けたものの、軽打を打ち込んでは動き回るカニサレスをつかまえられなかった。
「いつかは逆転するだろう」という希望的観測はラウンドを追うごとに絶望へと姿を変え、木村は力なく判定負けした。カニサレスはサウスポーではないが、ちょこまかと動き回る小柄な選手に屈した木村をセコンドがイメージしたというのは、この試合の前半戦を語る上で象徴的と言えるだろう。
KOはしたが、採点では負けていた。
そんな田中が底力を発揮し始めたのが6回だ。右サイドに踏み込んで右ボディを繰り返しヒットしたことで、悪かった流れを断ち切ると、迎えた7回はやや強引に前に出て、左ボディを打ち込んでゴンサレスをキャンバスに沈める。
立ち上がった挑戦者からさらにボディ打ちで2度のダウンを奪い、重苦しかった試合を終わらせた。
蓋を開けてみれば、6回までの採点は57-55、58-54、56-56の2-0でゴンサレスがリードしていた。「納得のいく内容ではなかったと思うけど、最後にああやって倒しきったところはさすが」という山中さんの言葉がこの日のチャンピオンを端的に表していた。