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左頬骨骨折の岡山学芸館・丹羽淳平。
執念の左前安打で見せた人間の強さ。 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byKyodo News

posted2019/08/16 14:20

左頬骨骨折の岡山学芸館・丹羽淳平。執念の左前安打で見せた人間の強さ。<Number Web> photograph by Kyodo News

8月10日の広島商戦、1回表、打球を受け担架で運ばれる岡山学芸館先発の丹羽。

「世間の皆様がどう思われるか」

 練習できるようになってから、丹羽自身は出場するつもりでいたが、スタッフらは慎重だったという。部長の井原正人が明かす。

「世間の皆様がどう思われるか、というのは気になりましたね」

 時節柄、「強行出場」は、すぐにバッシングの対象になる。完治しないまま出場し、打球がまた当たることも考えられるし、塁に出たときにタッチが顔に触れる可能性も高い。井原はバスケットボール選手やサッカー選手が顔面骨折したときに使用するフェイスガードを用意した。しかし丹羽が着用を拒んだそうだ。井原が続ける。

「こんなの付けて出たら、余計、そこまでして試合に出るんかって思われるんじゃないですか、って」

 丹羽は丹羽で気を使っていた。

 丹羽は主戦投手であり、5番打者でもある。広島商戦は、チームメイトが「1打席も立ってない丹羽のためにも勝とう」と終盤、逆転勝ち。

「命がけ」という言葉が大げさではない。

 作新学院戦、3打席目までは凡退したが、最終回に巡って来た第4打席、追い込まれながらも、レフト前へ運んだ。

「粘れた。自分らしいバッティングだったと思う」

 チームは0-18と大敗したが、丹羽の表情からは、充実感すら読み取れた。

 それにしても紙一重だったと思う。井原が言った。

「もう少し打球が上に当たっていたら、野球どころじゃなかったかもしれませんね」

 命がけ――。多くの競技スポーツがそうであるように、野球においても、この言葉が決して大げさではないことを思い知らされた。

 ただ、ときとして、選手はそれ以上に強い。
 

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