マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
甲子園の1日を記者はどう過ごすか。
試合、練習、囲み……常に取捨選択。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/08/08 07:00
甲子園のスタンドは暑い。それでも人が来るのは、その暑さを上回る魅力があるからである。
試合前、選手たちはどんな表情をしているか。
第1試合が始まったからといって、試合の展開に見入っている暇はない。30分もすれば、第2試合の試合前取材が始まる。
一塁側、三塁側の室内練習場に選手たちがズラリと並んで囲み取材をうける。「注目の存在」の回りには、記者たちの人の輪ができるが、二けた番号の選手には人影も薄い。
最近の監督さんたちは、取材慣れしているというか、お話が面白いので、ちょっと離れた所の「大人の人垣」からは、時折ドッと笑い声が聞こえたりしている。
1チームきっちり10分の囲み取材だからあっという間に終わってしまうのだが、気になっている選手がいったいどんな表情で話をするのか、それが見たくて内野スタンドのいちばん遠くまで足を運ぶ。
人が多いので、選手が話す声はよく聞こえない。話す内容よりも、むしろ話す表情に“素”が出るように思う。
もっと意地悪いことをいえば、囲みが解けた瞬間にいったいどんな表情に戻るのか、それとも変わらないのか。見たいのは、そこのところだ。
野球の選手も、裏オモテのないヤツが伸びる。これは、私の「絶対経験則」の1つになりつつある。
取材対象は2つ、体は1つ。
急いで記者席に戻ってみると、速い試合だと5回のグラウンド整備がもう始まっていたりするから、試合前取材に行くか試合に集中するかは、よくよく考えて決めないといけない。
相手はふたつ、この身はひとつ。間際までさんざん迷うことも多い。
1日4試合の日は、そういうことを3回繰り返す。