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『殴り合いの文化史』
ボクシングを愛す文化人類学者が、
“暴力とは何か”を論じた傑作。 

text by

萱野稔人

萱野稔人Toshihito Kayano

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posted2019/07/09 07:30

『殴り合いの文化史』ボクシングを愛す文化人類学者が、“暴力とは何か”を論じた傑作。<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『殴り合いの文化史』樫永真佐夫著 左右社 3700円+税

 少年のころ札付きのワルだった男がボクシングと出会い、チャンピオンへとのし上がっていく。そんなストーリーがボクシングの世界にはごろごろしている。それは実話のこともあれば、あとから脚色された、限りなくフィクションに近いものもあるだろう。どちらにせよ、ボクシングの世界ではそんなストーリーが好まれる。なぜだろうか。それは、そうしたストーリーがボクシングのヒストリー(歴史)そのものを映し出しているからにちがいない。本書を読んで私は思わずそんなことを考えた。

 事実、ボクシングは、こぶしで相手を倒す荒々しい暴力が厳格なルールにしたがうスポーツへと昇華したところに成立した。本書はその過程を具体的かつ丁寧に論じている。その射程はきわめて広い。なにせ古代ギリシア時代(つまり古代オリンピックが開催されていた時代)の拳闘にまでさかのぼってボクシングの前史をたどっているほどだ。こぶしで殴り合う競技は世界のいたるところで見出される、と本書はいう。それだけ、こぶしで相手を殴るという行為は人間にとって普遍的なものなのだ。

この記事は雑誌『Number』の掲載記事です。
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