猛牛のささやきBACK NUMBER
オリ新顔はT-岡田ならぬ「K-鈴木」。
プロ初勝利で掴んだ自信と課題。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2019/05/31 11:15
西村徳文監督(左)に祝福されるK-鈴木。今季4度目の先発となった5月18日西武戦でプロ初勝利を挙げた。
「打たれてもいいから」
昨年は主に中継ぎで4試合に登板したが、一軍ではどうしても力んでしまい、四球を出して崩れてしまうことが多かった。しかしこの日の姿は全く違った。最速150キロの角度のあるストレートと、カーブ、スライダー、フォークといった変化球を巧みに使って緩急をつけ、ストライク先行でテンポよくアウトを重ねていった。
「西村(徳文)監督には、『打たれてもいいから、しっかりと恐れずにいけ』と言われたし、何点取られようが、とりあえずストライクを投げようと思った。去年はずっとフォアボール、フォアボールで、それは絶対に嫌だったので」
しかしK-鈴木がマウンドを降りた後、8回にリリーフ陣が崩れて逆転を許し、プロ初勝利は消えた。
ピンチで中村剛也を迎え「楽しかった」。
翌日、K-鈴木は、白星がつくかつかないかということよりも、プロに入って初めて一軍で自分の投球ができたことに高揚していた。
「やっと、という感じです。カウント有利な状況が多かったので、すごく楽に投げられました」
昨年はマウンドで汲々としていたが、この日はどんな場面でも表情を変えず、終始、落ち着いていた。
「高山(郁夫)さん(投手コーチ)にも『堂々としとけ』と言われましたし、なんかすごく楽に投げられました。なんなんですかね……今まで感じたことがないような感覚でした。いつも自分は心臓バクバクで投げてたんですけど、昨日は全然違った。
状態が良くて、自信があったんですかね。ファームでしっかり結果を出して、『今の球だったら抑えられる』というのがあったんじゃないでしょうか」
最大のピンチは、7回表2アウト二、三塁で中村剛也を打席に迎えた場面だったが、「あそこが一番楽しかった」と振り返った。
「いつもだったら、『わーどうしよう。ピンチや』となってたんですけど、昨日はあの場面がすごく楽しかったんです。久々です、あんなにワクワクしたのは。
昨日は一度も『やべ、打たれそうだな』というのがなくて、気持ちに余裕がありました。本当に味わったことがない不思議な感覚でしたね。焦ることなく、落ち着いて……初めてです。表現するのが難しいんですけど、もうただバッターとの対戦を楽しんでいた、という感じですかね」
新境地に立ったK-鈴木は中村をカーブでレフトフライに打ち取り、悠々とマウンドを降りた。