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追悼・小出義雄/全ランナーへの言葉。
「笑顔で走れば結果はついてきます」
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byNanae Suzuki
posted2019/04/25 13:30
インタビュー中も終始穏やか、ニコニコした表情で答えてくださった小出義雄監督(2014年当時)。
「机の上の理論を信じちゃダメだよ」
いいかい、話を戻すよ。監督はそう言って、初心者の心情に思いを馳せた。
「うれしくて、夜も眠れなくて、初マラソンが近づくにつれワクワクしていると思う。そうした人に言ってやれることはね、普段通りの生活を心がけなさいと。睡眠時間を変えちゃダメ。食事も普段通りのメニューで良い。マラソンを走るからって特別なことをしない。じつはこれが大事なんです」
睡眠時間を削って走ったり、カーボローディングをしたり、マラソン向けの特別メニューは必要ないのだろうか?
「そんなのやる必要ない。カーボローディングなんて大嘘だよ。下手にやったら調子を崩すし、そもそも人の体の中には何も食べなくても42kmを走りきれるだけの脂肪エネルギーは蓄えられている。食べないとお腹が空くと言うから食べさせているだけで……。
誰それのマッサージが上手いと聞いても、Qちゃんの足なんか触らせなかった。やるとタラタラになって完走できない。25kmで終わっちゃう。机の上の理論を信じちゃダメだよ。オレは何年指導やってると思う? もう軽く50年以上。信じるなら、私を信じなさい(笑)」
ケガに注意し、コンディションを整え、いざマラソンのスタートラインに着けば、あとはもう思い切り楽しむだけだ。
「笑顔で走りきれば結果はついてきます」
そう言うと、あらゆるランナーがお手本にしたいような豪快な笑みを浮かべた。
小出義雄Yoshio Koide
1939年(昭和14年)千葉県佐倉市生まれ。高校卒業後に一旦は実家で働くも、順天堂大学へ進学し、箱根駅伝には3回出場。卒業後、千葉の公立高校などで教員生活を送る。市立船橋高校の駅伝部では、全国高校駅伝優勝となった。1988年より実業団チームの指導者へ。1992年バルセロナ五輪銀、1996年アトランタ五輪銅の有森裕子さん、2000年シドニー五輪金の高橋尚子さんをはじめ、世界選手権金の鈴木博美さん、世界選手権銅の千葉真子さんらを育てた。2001年、佐倉アスリート倶楽部設立。享年80歳。