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平成10年、万年Bクラスのホークスを
率いる王監督が思わず漏らした「本音」。 

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石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

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photograph byHideki Sugiyama

posted2019/04/22 11:00

平成10年、万年Bクラスのホークスを率いる王監督が思わず漏らした「本音」。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

王貞治=ストイックという固定観念は、この偉人の一面しか捉えていない。自由で奔放な人でもあるのだ。

めざす王野球なんてものはない。

 めざす王野球って何ですかって、よく言われるけどね、そんなものはないんだよ。あえて言えば、'98年のダイエーというチームを与えられて王貞治がやる野球、これが王野球だな。監督というのは、与えられた戦力の中でどう戦うかということが任務なんだから。王野球は攻撃野球だとか守りの野球だとか、そういうことを言うこと自体ね、ナンセンスなんだ。俺も、今の中日やヤクルトを率いた場合には、同じ野球はしない。長嶋野球とか王野球っていうものは、ひとつじゃないんだよ。

 俺が今やろうとしてるのは、別に俺らしい野球じゃないんだよね。今のプロ野球で勝つということを求めた場合に、やらなきゃいけない野球をやろうとしてるだけよ。要するに豪快さだけを前面に出してたんじゃ、最終的には勝てないんだから。そのために俺はピッチャーを補強してくれと言い続けたんだよ。俺は監督なんだから、勝つということで答えを出さないかんのだしね。今年も、去年優勝した西武がテリー・ブロスとか西崎幸広とかを獲って補強してる。ウチも今年は即戦力のピッチャーを取れたけど、でも今年が初めてだよ。もちろん、我々現場だって、批判は受けますよ。ただフロントだって、自分たちのやってきたことがどうだったかと常に自問自答してほしいよね。ウチのピッチャー、この3年間、冷静に見ても、135試合戦って勝てる戦力じゃなかったと思うからね。

ホームラン王だった頃を知らない選手たち。

<今のところ、監督としての王貞治には高い評価は与えられていない。しかし、巨人での5年間には、一度としてBクラスに転落したことはないし、17年連続Bクラスのチームを率いてまだ3年、飛躍的な成果を望むのも酷な話だ。ただ、「世界の王」が醸し出す雰囲気が、世の上司としての理想からはほど遠いと感じさせていることは間違いない。ミーティング漬け、門限厳守、堅すぎる采配、すべて若い世代の選手に受け入れられにくいと思われがちだ。しかし、王は自信満々にこう反論する。>

 まぁ、若い世代にはちょっと理解を超えた部分があるけどね。でも、俺たちも当時の監督やコーチからすれば理解を超えたところはあったと思う。ジェネレーション・ギャップというヤツね。じゃあ、ミーティングやめちゃおうとか、門限なくしちゃおうとか、そういうことで迎合しようとは思わない。だって、そういうやり方で勝てなかったチームなんだから。逆にミーティングもやるし、門限もちゃんとするということだよね。今まではちゃんとやってなかったんだから。それで勝ってりゃいいけど、勝ってないんだから。

 ウチも小久保裕紀以下、井口忠仁、城島という生え抜きの選手が中心になってきたから、俺の言うことも素直に聞けるようになってきたんじゃないかな。これまではみんな、俺に対して斜に構えてたとは思うね。最初は「何言ってんだ」って感じだったよ、選手はね。そりゃ、東京から来てさ、なんだかんだ言ってるよという、そういう受け取り方をしちゃう集団だったのよ。それが、選手の顔ぶれも変わったし、今いる選手たちにとっても、少なくとも俺が来る前と今の俺のイメージが、だいぶ変わったと思うね。以前よりも選手たちとの距離は間違いなく近くなってるという実感はあるよ。城島なんか俺に対して「よっ」て感じだからな(笑)。吉武真太郎にしてもそうだけど、俺の現役時代なんか知らない世代だろ。逆に、工藤公康や秋山幸二のほうが、現役時代、ホームラン王だった頃の俺を知ってる分、話し方なんかも俺に対して腰が引けてたところはあったかもしれないな。とにかくね、選手には目の前で見た俺を信じてほしいんだよ。それが実像なんだから。

【次ページ】 「ミスターを陽に書きたいから俺を陰にするんだな」

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