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新時代の上原浩治。「みなさんには、今年の
僕の姿を目に焼きつけておいて欲しいです」

posted2019/04/15 11:00

 
新時代の上原浩治。「みなさんには、今年の僕の姿を目に焼きつけておいて欲しいです」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

text by

生島淳

生島淳Jun Ikushima

PROFILE

photograph by

Kiichi Matsumoto

 2019年のシーズン。

 平成から令和へと元号が変わる年の開幕を、巨人の上原浩治は二軍で迎えた。

 一軍が開幕した翌日の3月30日、上原はジャイアンツ球場で行われたイースタンリーグのロッテ戦に今季二度目の登板を果たし、一軍で必要とされる日に向けて黙々と調整を進めている。

 キャンプの段階から、チーム最年長の上原は、入団して間もない若手と一緒に練習を重ねてきた。

「若手の存在が、いい刺激になってます。彼らから学べることもありますからね。ピッチングコーチではないので、僕の方から積極的にアドバイスをするようなことはありませんが、質問をされれば、もちろん答えます。もしも、僕の経験がみんなのプラスになるようならそれはうれしいですし、チームの財産になっていくかもしれませんしね」

気の置けないスタッフ、後輩と一緒に。

 今シーズンの上原の理想は、先発した若手の後を受けてマウンドに立ち、しっかりと自分の仕事をしてチームの勝ちにつなげることだ。

 そして彼らと、大好きなビールを片手に語り合えれば、それもまた最高の時間であろう。

「自分が20代の頃から一緒に仕事をしてきた気の置けないスタッフと大好きなプレモルを飲むのは、とてもリラックスできます。後輩たちと飲むのもいいですよね。練習中に教えられることもたくさんありますけど、ユニフォームを脱いでから、オフの場面で伝えられることも、たくさんありますから。ひょっとして、若手から見たら“お父さん世代”と飲むような感じかもしれませんけど、同じ職場で、同じ優勝という目標に向かって仕事ができるわけですから、一緒に乾杯できたらいいと思うんですよ」

 若手には温かい眼差しを向ける上原だが、ひとたびユニフォームを着れば彼らとはライバルとなる。

 しかも、今季の巨人は開幕からブルペンの若手の起用が目立った。彼らとの争いを勝ち抜かなければ、上原は一軍のマウンドに立つことは出来ない。

「それは当たり前のことです。野球選手にとって、ポジションは与えられるものではなく、勝ち取るものですから。僕はプロに入ってからずっとそう思ってやってきましたし、今年もそれは変わりません。ポジションを勝ち取って、シーズンを通してチームに貢献することが僕の今季の目標です」

優勝投手になっても油断しない。

 ポジションを勝ち取る。この姿勢に関しては、野球人として一貫しているのが上原の特徴だ。

 2013年、ボストン・レッドソックスがワールドチャンピオンに輝いた瞬間、上原はマウンドにいた。天下取りの優勝投手になったのだ。

 その翌年、キャンプ取材でフロリダを訪れると、上原には緊張感が漂っていた。

「今年も、クローザーのポジションを勝ち取らなければいけませんから」

 まさか、と思った。

 優勝投手をクローザーから外すだなんて、考えられなかった。レッドソックスのクローザーは上原しか考えられなかった。しかし、上原はそんな私の考えを否定した。

「ポジションは保証されてませんからね。9回のマウンドを任せてもらっても、失敗が続けば外されます。それくらい、シビアな世界ですし、結果を残すことだけが生き残る道ですから」

びびることと、緊張感は違う。

 今季も、上原は同じマインドセットで日々練習に励んでいる。

 リリーフは「経験」がモノをいう職場だ。

 ランナーを背負った状態でマウンドに立ち、自分らしいピッチングが出来るかどうかは、どれだけ修羅場をくぐってきたかも重要な要素になる。経験だけで比較するなら、上原の右に出る者はいない。

「振り返れば、ワールドシリーズのマウンドにも立ちましたし、メジャーリーグを代表する強打者と対戦してきましたから、どんな打者と向き合っても、びびるということはありませんよね。ただし、緊張感は必要です。しっかりと気持ちを作って、集中してマウンドに上がることが、いい仕事をすることにつながると思うので」

 二軍であっても、その気持ちに変化はない。ただし、上原からファンに対しての伝言を預かった。

「みなさんには、今年の僕の姿を目に焼きつけておいて欲しいです」

 この言葉をどう読み解くかは人それぞれだが、2019年、上原にとってはひとつひとつの登板が勝負のマウンドになる。

 私は、上原の言葉に従い、その姿を大切に目に留めておきたいと思っている。

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