錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭が無冠の天才から脱するため、
好相性のマイアミで見たい執念。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2019/03/22 15:00
チャンコーチと笑顔でトレーニングする錦織圭。悲願のマスターズ制覇への執念を見せてほしい。
ジョコビッチの予言めいた発言。
今シーズン開幕戦のカタールで、ジョコビッチはこう予言めいた発言をした。
「若い選手がランキングの上位に来て、たとえばズベレフはマスターズもツアーファイナルズも勝った。グランドスラムで彼らが勝つようになるのも時間の問題だろう。
でも〈ビッグ4〉が支配した過去10年間から判断すれば、僕たちが健康である限り、今年もグランドスラムでは僕たちが勝つチャンスが大きいと思う。5セットマッチで2週間戦われるグランドスラムを勝ち抜くという経験と理解の点で、僕らが絶対に有利だ」
全豪オープンではフェデラーもこれに同意した。しかし彼らも年はとった。37歳のフェデラーを最年長として、ナダルは32歳、ジョコビッチも31歳だ。彼らがグランドスラムに注ぐエネルギーを最優先させ、トップとしての息の長いツアー生活を考えてスケジュールを組めば、自ずと出場大会は減るだろう。
ジョコビッチは年齢以外の事情についても説明する。
「昔みたいにフルシーズンで力を注ぐことができればいいけど、2人の子供を持つ父親である今、状況は以前と違う。家族も優先させたい。プロフェッショナルとプライベートの両方を満足させるためのバランスをとることが、常に重要なんだ」
つまり、たとえば年間10個以上のタイトルを獲得した2004年から2006年までのフェデラーや、7大会連続優勝した2011年のジョコビッチはもう存在しない。グランドスラムでは3強が健在のままでありながら、ツアー全体としては彼らの壁が崩れつつあるという現状を読み解くなら、以前よりも的を明確に絞る彼らの戦略が背景にあるのではないだろうか。
イズナーやソックが優勝したのに。
それにしても、過去2年間に新たにマスターズを制した顔ぶれを見るたびに考えてしまう。
優勝時に32歳だったイズナーや、22歳とまだ若くトップ10入りもしていないハチャノフ、グランドスラムでは4回戦が最高成績のソックまでもがトロフィーを手にして、錦織圭がまだそれを獲っていないという不思議について……。
錦織が10年以上に渡って男子テニスの歴史に残してきた足跡が彼らに劣るはずもなく、そんなことは誰もが知っていて、タイトルの有無だけで勝ち負けや優劣を評価するなど馬鹿げている。でも、だからこそ欲しい。獲ってほしい。「上から目線」と非難覚悟で言うなら、獲らせてあげたい。