濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
武尊と那須川、同日にメインで決戦!
“興行戦争”がもたらした相乗効果。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakao Masaki
posted2019/03/19 10:30
ヨーキッサダー戦KO勝利後、「格闘技ブーム」到来を力強く宣言した武尊。
ムエタイ王者を倒した武尊の覚悟。
最高のノックアウトから約1時間後、今度はさいたまに最高の瞬間が訪れた。メインイベントの武尊vs.ヨーキッサダー・ユッタチョンブリー。K-1で3階級制覇を達成したスター選手と“ムエタイの殿堂”ラジャダムナン・スタジアム王者の対戦であり、武尊にとってキャリア最大の難敵だった。
K-1とムエタイはルールに違いがあり、ヨーキッサダーは“K-1向き”ではないという声もあったが、それも含めて厄介だった。好戦的な武尊の持ち味がいなされ、すかされて消化不良の判定決着になってしまうリスクがあったからだ。
「相手に隙がなかった。僕がこんなに前に出られないことは今までなかったと思います」
武尊は試合序盤をそう振り返っている。どっしりと構えたムエタイ王者はいかにもカウンターを狙っていそうで、しかも時おり放つミドルキックは「もらいすぎたら腕が折れる」と感じるほど強烈だった。
それでも、ムエタイのリズムとペースに呑まれなかったのが、プロわずか1敗、31連勝中の非凡さだった。2ラウンド、攻撃態勢に入った相手が前に出てきたところで「覚悟を決めて」踏み込み、カウンターの右ストレート。これでダウンを奪うと、続けざまの左右フック連打でヨーキッサダーに初のKO負けを味わわせた。
「今日からが格闘技ブームのスタート」
那須川も武尊も“これぞ”という勝利を見せてくれた。1時間を挟んでの連続KO劇は、現在の格闘技界が持つ勢いを象徴するものだった。
もちろん、ファンの誰もが期待するのは2人の直接対決だ。
実現のために必要なのは「格闘技界をもっと盛り上げていくこと」だと武尊は言う。団体間の壁をことさらに嘆いたりはしないところが、現代的なスマートさとも言えるだろう。
「今日も同日開催があって、格闘技ブームになってきてると思います。昔のブームにはまだ追いついてないけど、今日からが格闘技ブームのスタートです」
試合後の武尊は、観客に“格闘技ブーム宣言”をしてみせた。その上で「ブームで終わらせるつもりはないです」。目標はサッカーのW杯やオリンピックのように、社会全体を巻き込むことだ。「同日開催」に触れつつ「特にライバル意識があるわけじゃないんです」とも。
「(業界全体を)底上げしていかないと。“こっちだけ知っててほしい。向こうは知らなくていい”じゃないんですよね」