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貴乃花が語る“奇跡の逸材”。
稀勢の里が国民に愛された理由。
posted2019/02/15 17:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Naoya Sanuki/Hideki Sugiyama(JMPA)
この2人には不思議なつながりがある。
第65代横綱だった貴乃花親方が昨年9月、角界を去った。それから半年も経たない、今年1月の初場所で第72代横綱・稀勢の里が引退を表明した。
こうした時間的な巡り合わせだけではない。
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貴乃花は22回、稀勢の里は2回、幕内最高優勝の実績にこそ違いはあるが、最も大きな共通点は、数字を超越して、国民に愛されたということだ。いるか、いないかが土俵の熱を左右した。観る者が勝敗以上の何かを託していたという点において、不思議なほど似通っている。
現在、発売中のNumber972号「横綱論」において、貴乃花(もう花田光司氏と呼ぶべきかもしれないが、あえてこう記させていただく)はインタビューに応じた。その中で「なぜ、稀勢の里があれほど愛されたのか」ということについて、じつに明快に語っている。
「稀勢の里はガチンコですから。ズルなしですから。本来は全部がそうでなければいけないんですけど、ご承知の通りですから。だから、これだけ惜しまれて引退するんです。国民の皆さんは、知らないようで、知っているんですよ。戦いはそんなもんじゃない、と」
角界を退いた今だからこそ、言えたことだったのかもしれない。
「あの熱狂」にも納得がいく。
仮に貴乃花の言う通りだったとして。身ひとつを渾身の力でぶつけ合う大相撲において、生身を守るために勝負への忖度が存在したとして。それを拒否し続ける道というのはどれほど孤独で険しいものだろう。
それを国民は潜在的に見てとっていた。貴乃花は、そう言うのだ。
確かにそう考えれば、稀勢の里が19年ぶりの日本出身横綱となった2017年初めに大相撲を取り巻いていた期待感も、横綱になって初めての3月場所で逆転優勝した瞬間、土俵に渦巻いていたあの熱狂にも納得がいく。
「ガチンコというのは、若い時から(番付が)上がっていくたびに寿命が縮まっていると思っていただければ。それくらい、大変なことなんです」