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錦織圭の逆転勝利は必然だった。
「この10年の経験値が僕の武器」
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byGetty Images
posted2019/01/16 17:30
2セット先取されても、周囲ほど錦織圭本人は焦っていなかった。積み重ねた経験への自信が彼を支えている。
10年分の経験値が錦織を支えている。
錦織は「トップ30にいてもおかしくない」と相手を褒めたあと、実はこう続けている。
「なかなかあれが3セット、5セット続いたり、決勝まで行ったりというのは、たぶんまだ難しいとは思いますけど」
相手を見下して言っているのではない。辛勝の苦味を舌に感じながら、そこがマイクシャクの現在地、と見極めたのだ。
昨年のオフシーズンに行った個別インタビュー(1月17日発売のNumber970号に掲載)で錦織は、選手の経験についてこんな話をしている。
「経験値も必要だと思う。自分のテニスもこの10年があってこそ身につけられたものだと思います。試合の中で、攻めないといけない場面と守る場面がちょっとずつ分かるようになった。大事なポイントがいつかっていうのも経験しないとなかなか分からないので、それが今は自分の武器というか、大事な経験値になっていると思います」
台頭する新勢力は脅威だが、自分にはプロ10年間の経験がある、そんな自負が読み取れた。
総合力が勝敗を分けた。
5セットマッチを戦い抜くためのゲームマネジメント――戦術面では攻守のバランス、フィジカル面では体力の消耗を抑える戦い方、といったノウハウは、錦織にあってマイクシャクにないものだった。ケイレンは水分補給、栄養補給の失敗でもあり、経験のある選手なら防げたかもしれない。棄権は彼のスキル不足でもあったのだ。
そもそも、今の錦織は体力的にも周りのトッププレーヤーと遜色ない。昨シーズンまで6年間専属トレーナーを務めた中尾公一が「フィジカル的には、いいレベルにいる」と太鼓判を押している。さらに伸びる余地はあるが、体は限りなく完成に近づいているという見方だ。
錦織の1回戦は決して棚ぼたの勝利ではない。経験ではるかに勝る上位選手が、スコアでは優位に立たれたが、体力と精神力を総動員し、若いマイクシャクを逆に追い詰めた、という一面が間違いなくある。
「100点ではないが、70点、80点くらいはできていた」という錦織の自己分析は強がりではないだろう。差を分けたのは、プロ10年選手が持つ経験だった。