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大谷翔平へ栗山監督からのエール。
「僕の想像をさらに越えてくれ」
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byNanae Suzuki
posted2019/01/14 09:00
大谷翔平のメジャー1年目を語ってくれた栗山監督。愛弟子の活躍に目を細めていた。
大事な時に見せる“無反応”。
あれは6年前か。ドラフトのあと、初めて翔平に二刀流の話をしたとき、アイツがあまりにも無表情だったことは今でも印象に残ってる。翔平って、大事なときにはそういう反応になるんだって、あとからわかったんだけど……無表情で呑み込むっていうのかな。まったく反応しないときのほうが心に染み込ませていく感じがあって、そういうときのアイツがどう思っているのか、僕には察しがつかなかった。
やらなければならない使命があるときほど、「はい」と言いながら、身体に伝わったな、という表情をするんだ。そういうときほど、結果的にこっちの期待を越えてきたからね。
僕の中で卒業はまだだよ(笑)。
ファイターズ大学を4年で卒業して、1年、大学院へ進んで、6年目で留学した。もちろん僕の中で卒業はまだだよ(笑)。もう、完全に僕らから離れて構わないんだけど、でも、誰かが文句を言い続けないとね。
こっちにいたときの翔平は、自分さえ完璧で調子がよければ試合には勝てる感じを持っていたと思う。でも、それじゃ、おもしろくなかった。だからもっとすごいものを見てみたかった。
ところがアメリカに行っても、フォークとスライダーをイメージ通りに操れれば、翔平なら抑えられちゃうんだよね。そういう中に何人か、そこを越えてくるバッターがいる、ピッチャーがいる。すげえなと思う相手をねじ伏せるためには元気な状態でいなきゃいけないし、それを楽しむのが自分の野球なんだという価値観をアイツは忘れない。
何となく流されて、勝てばいい、打てばいい、タイトルを獲れればいい、評価されてお金も得られればいいという価値観からかけ離れてるのが大谷翔平だと思うし、だからアイツは世界一まで行ける。翔平が本気になったら、もっともっといろんなことを起こすし、本当に世界一の選手になると思っているので……まだ、世界一の選手ではないからね。
盗塁して、ホームインして、ヨッシャーってガムシャラに、泥だらけになって、天真爛漫に野球をやる。それが楽しくてたまらないのが翔平だからね。二刀流が日本発祥のものだと言っていいのなら、日本人としてその魂を持って、侍が斬り込んでいく今年の感じはすごく素敵だった。だから野球の神様は絶対に翔平を裏切らないし、アイツの決断は正しくなるんだよ。
(Number963号『栗山英樹 僕の想像をさらに越えてくれ。』より)