ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
松山英樹の誤球騒動と895万円。
それでも当事者と後輩が得たもの。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2018/11/23 09:00
松山英樹(右)とは大学時代の先輩・後輩の関係に当たる比嘉一貴。
「なんだかんだで負けている」
予選36ホールのプレーを終え、星野は飛距離について「なんだかんだで松山さんに負けている」という印象を持った。
「だいたい同じくらい、でも微妙に負けるんです。球筋も違うんですけど、『うわ、(全力で)振った!』というところでのパワーが違う」
1W以外のショットにも目を奪われた。
「常にしっかり振っている。短いショットでも“緩む”ことがない」
繊細さを出したい場面でも、思い切りよく振り抜くことの重要性を感じられた。
とはいえ、PGAプレーヤーをただ仰ぎ見ていたばかりではない。「自分は今年からショットのバリエーションとして、フェードボールをすごく取り入れている。そこで近いもの、松山さんがピンを一直線で狙う時に、自分と同じような(弾道の)イメージで打っているときがあった」と納得した。自分と世界最高峰で戦う選手の実力の差はいかほどか。それを測るには絶好の機会だった。
2日目のプレー後、星野は「疲れてます。めっちゃ疲れたっす」と笑った。大勢のギャラリーの前でプレーすることには「全然、慣れています」というが、「勉強しようと頭を回転させすぎて。なんとか盗もうと思って。良いものを吸収しようとして。頭が爆発しそう……」と苦笑するほど必死だった。
松山の大学の後輩は違う見方。
誤球騒動を他とは少し違う見方で捉えたのが、比嘉一貴という若手選手だった。昨年末にプロ転向した23歳は、東北福祉大OBの先輩である松山とかねて親交がある。
トラブルを伝え聞くと、「松山さんと同じところ、間違えるくらい近くまで飛ばせた選手がいるんですよね。星野? そこまで持っていく陸也がすごい……。僕では追いつかないですから。あのドライバーショットはやっぱりすごい」と、うなずいた。
彼の姿を見れば、多くの人が「ゴルフは必ずしも体格がすべてではない」と実感できる。身長は星野より28cm低い158cmである。
比嘉はルーキーイヤーの今年、ただの小兵でないことを成績で証明した。たった8試合で、来季のシード権確保を目前にしている。わずかな主催者推薦の機会を活かし、秋に入ってトップ10入りを3回続けて一気に圏内に割り込んだ。春先には戦いの場を求めてアジア下部ツアーに参加し、バングラデシュでいきなり優勝。アジアンツアーの出場権獲得にも目を向けている。