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5年連続のシード権獲得に挑む。
中央学大に見る“弱者の兵法”。 

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折山淑美

折山淑美Toshimi Oriyama

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posted2018/11/15 11:00

5年連続のシード権獲得に挑む。中央学大に見る“弱者の兵法”。<Number Web> photograph by AFLO

前回大会では最終10区を走った藤田大智(右)が14秒差で逃げ切り、シード権獲得。

“心の教育”重視の指導法。

 川崎は大学を卒業してから最初のコーチ就任が中央学大だった。当然最初は指導経験も無く、自身が母校の順大で教えられたことを試した。だが、強豪チームの手法をそのまま試しても、まるで結果は出なかったという。そこで他の指導者の手法を見て、新たな道を探り始めて考えたのは“心の教育”に重きを置いた指導法の方が、力のない選手たちには合っているのではないかということだった。これは、川崎の報徳学園高校時代の恩師である、故鶴谷邦弘監督に教えられたことだという。さらに当時、一気に成績を伸ばしてきていた神奈川大の大後栄治監督の指導法も参考にして指導するようになって、結果が出始めた。

「'03年の大会で、2区を走った福山良祐がたまたま区間6位で走って9人抜きをしたんです。その時、彼は事前の練習が全然できていなくて『チームのためにも良くないので、自分ひとりで調整をやらせてください』と言ってきていて、練習を本人に任せていたんです。それでもしっかり走ってくれたので、その時から何でもかんでも一緒くたにやるのではなく、選手の個性も大事にしなくてはいけないなと思うようになって。『もう少し学生を信頼しなくてはいけないな』と、いろんなことを学生に決めさせるようにもなったんです」

むしろヤンチャな子の方がいい。

 その頃から選手へのスカウトの意識も変わってきたという。好記録を持っている選手は、すでに駅伝で実績のある有力校へ行ってしまう。記録はなくとも「この子は面白いな」と思う選手を探して声をかけるようにした。

「今でこそ信頼関係が出来ている高校の先生たちが『この子は強くなるよ』といい選手を送り込んでくれるようになったけど、それでも記録で選手を追いかけることはないですね。僕自身あまり完成品の選手は面白くなくて、『この子はここを直したら強くなるだろうな』というように手を加えたいタイプなんです。性格的な理想は“ガンガン行く強気な子”だけど、そういう子はほとんど来ない(笑)。

 次に優先するのは明るい子ですね。高校の先生が『とにかくまじめでコツコツやるんです』という子は意外とダメで、むしろヤンチャな子の方がいい。いろんなことを教えてあげると、エネルギーが陸上競技の方に向いてくれるんです。『この子かな?』と思う選手には下級生の時から声をかけているけど、行くのは関東か関西のみですね。昔は全国いろんなところに行っていたけど、良いタイムが出た選手はうちには来てくれないし、環境が整っている名門高校の選手は、うちの大学の練習環境を見れば『こんなところでやるの?』と気持ちも高ぶらないだろうからほとんど行かないんです。あまり無駄なエネルギーは使わないようにしています」

あえて高い要求をせずに。

 練習内容も独特だ。基本的に川崎は選手に高い要求はしたことがないという。

「能力がある子だったら高い目標を持った練習ができるかもしれません。でもうちには能力も、高い潜在能力を持った子もいないので」

 そこで高い要求をすれば、そこには“無理”が生じる。だから選手たちが自分の練習プランを提出してきても「本当にそれでできるのか?無理ちゃうか?」と少しレベルを下げさせることがほとんどだという。

「やっぱり選手たちは指導者にプランを持ってくるときには、どうしてもいいかっこをしてくるんです。だから『確実に頑張ったらできる』というメニューにした方がいい。チームメニューでも『これを君たちの能力でできるの? 相当頑張らないと無理じゃないか』という相談をよくするんです」

【次ページ】 スピード練習にも独自の考えが。

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