球体とリズムBACK NUMBER
ルヴァン優勝で流れた曹監督の涙。
「湘南スタイル」の本当の意味とは。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2018/10/29 11:40
Jリーグで屈指の熱血監督、曹貴裁監督。手塩にかけた湘南で、ついに公式戦タイトルホルダーとなった。
新人に勝負の責任を持たせる。
「サッカー選手がサッカーだけをやって、本当に良い選手になれるかと問われれば、僕はノーと言う主義。我々は大好きなサッカーを通じて、いろんな物事を学んでいる」
だから指導者の道を歩み始めてからは、徹底的に人間と向き合ってきた。「怒るときには(その選手の)逃げ場がなくなるぐらい言うけど、怒っているというよりも、そこからどう這い上がるのかが大事だよ」と伝えようとしてきた。
そして湘南の指揮を執るようになってからは、フットボールの「カルチャーをつくるために」、“湘南スタイル”というキャッチーな言葉を用いてきた。ただ、「若い奴らがよく走って、球際で激しく戦い、縦に速いスタイル」という一般的なイメージは、その一面に過ぎないという。近年は「勝つために、それ以外の部分を高めていく」努力を積み上げてきた。
そんな風に、指揮官自身も監督業を続けるなかで「自分も鍛えられてきた」し、考え方にも変化があったところがある。そのひとつが、「若手への責任の負わせかた」だ。
「自分が色々と経験してきたなかで、新人にも最初から勝負の責任を持つように指導するようになった。年長者に任せておけばいい、ではなく、勝つことによって自信を深めてほしいので」
ヤングキャプテン杉岡の一撃。
ルヴァンカップ決勝では、湘南の若手の筆頭格、杉岡大暉がその「責任」を果たした。36分、左のウイングバックが中盤でボールを受け、思い切って左足を振り抜くと、パワフルな弾道はGK飯倉大樹の伸ばした手を弾いてネットを揺らし、これが決勝点となった。今季のチームに新設された“ヤングキャプテン”を任される20歳が、大役を授けた指揮官の期待に応じた形だ。
また杉岡と共に市立船橋高時代にインターハイを制した金子大毅も、決勝で躍動した。1週間前のリーグ戦の札幌戦後の会見で、「試合になると強気になるのが、あいつのいいところ。今日も前半の途中で、『あのさ、チャナティップ、どうすんの?』って思いっきりタメ口を聞いてきた。面白かったですね。それぐらい根性がある」と指揮官に評されていた20歳のMFは、中盤の中央で堂々たるパフォーマンスを見せた。
「自分ではわからないんですけど、試合になると“ゾーン”に入っちゃうので」と白い歯を見せながら、金子は試合を振り返っている。